Q1. 知的障がいがある兄が、現在、警察に逮捕されています。障がいのある人の刑事事件ではどのような点に注意が必要でしょうか。
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障がいのある人は、人の話を正しく理解することや、自分の考えや気持ちを相手に対して正確に伝えることなどが、障がいのない人と比較して、なおのこと困難です。
例えば、警察署や検察庁での取調べにおいて、障がいがあるために、警察官や検察官からの質問の意味が正しく理解できていないにもかかわらず、質問の意味を理解したかのように振る舞い、警察官や検察官の誘導に乗せられ、あるいは、警察官や検察官に迎合し、警察官や検察官の言い分を認めてしまうようなことがあります。また、障がいがあるために、自分の考えなどを警察官や検察官に正しく伝えることができず、自己防衛が十分にできないこともあります。その結果、共犯者の罪をすべて被せられたり、無実の罪を着せられたりする危険があります。
さらに、障がいのある人は、特定の事柄に対する強いこだわりなどを持っていることがあり、そのような強いこだわりなどが影響し、人との意思疎通を図ることが難しくなることがあります。
刑事事件の中で、警察官や検察官、裁判官などとの意思疎通がうまく図れず、結果的に、自分の言い分が警察官や検察官、裁判官などに正しく理解されることないまま、不当な厳罰を受けるなどし、適正な刑事手続きを受ける権利が侵害されるおそれもあります。
そこで、大阪弁護士会では、逮捕されたり、取調べを受けたりするなどして、罪に問われている障がいのある人について、障がいの特性に理解のある弁護士が弁護人に選任されるようにするためのシステム(Q5)や「大阪モデル」という制度を作る(Q6)などして、障がいのある人の刑事事件を支援することに取り組んでいます。
Q2. 兄は、現在、警察に逮捕されています。いつごろ家に帰ることができますか。刑事事件の流れについて教えてください。
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被疑者が逮捕された場合、48時間以内に検察官に送致される(警察から検察官に事件を引き継ぐ)ことになります。
検察官は、被疑者に逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあると認めた場合、裁判官に対して、引き続き被疑者の身体の拘束することを請求します。これを勾留といい、期間は原則として10日以内ですが、さらに10日以内の延長ができることとなっており、最長で20日間(ただし、限られた事件については25日間)となります。
この勾留期間中に、検察官が、事件を起訴するかどうか(裁判にかけるかどうか)を決めます。起訴された場合には、裁判が終わるまで引き続き勾留され、起訴されない場合には、釈放されます。
なお、犯罪が比較的軽微で、100万円以下の罰金又は科料が相当である場合、検察官が裁判所に対し、正式な裁判手続によることなく書面での審理のみで罰金又は科料の刑罰を言い渡す特別な手続き(略式起訴)を求めることがあります。この場合は、起訴と同時に釈放されます。
起訴後に保釈が認められれば、裁判の間、仮に釈放されます。保釈を認めるかどうかは裁判所が決めることであり、また、保釈中に逃亡したりせず、裁判に出頭することを約束したうえで、保釈保証金を裁判が終わるまで裁判所に納める必要があります。
※「被疑者」とは、犯罪の疑いを受けている人のことをいいます。起訴された後は、「被告人」と呼び名が変わります。
Q3. マスコミなどで刑事事件が取り上げられるとき、「責任能力」という言葉をよく耳にしますが、「責任能力」とはどういったものですか。
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責任能力とは、@善悪を判断する能力(自分の行っていることが悪いかどうか判断することができる能力)、A行動を制御する能力(その行動に出ることを思いとどまることができる能力)を言います。
その行為の当時、障がいの影響(例えば幻覚や妄想など)により、このどちらかを欠く状態を「心神喪失」(しんしんそうしつ)、このどちらかが著しく減退している状態を「心神耗弱」(しんしんこうじゃく)と言います。
刑法は、「心神喪失者の行為は罰しない」とし、「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と定めています(刑法39条)。
Q4. 心神喪失や心神耗弱の状態で重大な行為を行った場合、医療観察法の対象になると聞きましたが、これはどういったものですか。
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「医療観察法」(正式名称は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」といいます。)は、心神喪失等の状態において重大な他害行為を行った人に対して、継続的かつ適切な医療を行うことにより、その病状を改善し社会復帰を促すための法律です。
「重大な他害行為」とは、殺人、強盗、傷害、不同意わいせつ・不同意性交等、放火等を指します。
心神喪失や心神耗弱の状態においてこのような重大な他害行為を行った人が円滑に社会復帰をすることができるように、医療観察法に基づいて、医療、観察及び指導が行われることになっています。
しかし、「重大な他害行為を行った」と疑われた人は、通常の刑事事件と同様、多くの場合、逮捕・勾留されて、警察署で身体拘束を受けます。
また、通常の刑事裁判手続にならなかった場合でも、「重大な他害行為を行った」と検察官によって判断された人に対しては、原則として、裁判官によって鑑定入院命令がなされます。これにより、重大な他害行為を行ったとされた人は、容易に病院から出ることができず、人権を制約されます。
さらに、審判の場面でも、医療のため、治療のためという名目のもとで、医療観察法上の入院対象でない方についてまで入院決定がなされてしまう危険があります。そして、ひとたび入院決定がなされてしまうと、入院が長期化し、人権が制約される危険があります。
そこで、身体拘束当初から弁護士が関わって、不当な人権制約がなされないよう活動することが大切です。
→障がい者の刑事事件について相談したい方はこちら。
Q5. 大阪弁護士会では障がい者の刑事事件について、何か具体的な取り組みをしていますか
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被疑者として身体を拘束された人が「当番の弁護士を呼んでください」と言うときに、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳等を持っていたり、「自分は障がいがあります」「精神科の病院に通院しています」などと言っていたりする場合には、その旨「刑事当番」の係に連絡が入るようになっており、障がいの特性について理解のある弁護士を派遣するシステムを作っています。
また、障がいのある人の刑事事件は、本人の利益や刑事処分でも複雑な問題が多いため、障害者刑事弁護サポートというメーリングリストを立ち上げ、障がいに詳しい弁護士が、障がい者の刑事弁護を担当している弁護士の悩みや相談に乗り、リアルタイムでアドバイスをすることができるシステムを作っています。このメーリングリストでは、例えば、障がいのある被疑者・被告人が身体拘束を解かれた後のことについて、どのような支援が可能かということなどが議論されています。
さらに、逮捕勾留されずに、在宅で、障がいのある人(認知症の高齢者含む)が犯罪捜査の対象となり、弁護士に頼みたいが弁護士費用を支払う金銭的な余裕がない場合に、特別に、弁護士会が弁護士費用を援助する制度を作っています。
Q6. 障がい者の刑事弁護について、「大阪モデル」という制度があると聞いたのですが、どのような制度なのでしょうか。
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「大阪モデル」とは、被疑者・被告人に障がいがある場合等に、福祉専門職等に関与してもらい、被疑者・被告人の支援に協力していただく仕組みです。司法と福祉が連携する必要性が高いことから、大阪弁護士会は、このような仕組みを2014年6月に立ち上げました。
現在、「大阪モデル」で関与していただいている福祉専門職等は、大阪府地域定着生活支援センターの相談員の方や地域で障がいのある人や高齢者の支援している方々です。
「大阪モデル」の利用にあたっては、弁護人からの申込みが必要です。