色々な場合が考えられますが、法定相続人(→Q7)以外の者に遺産を継がせたい場合や、法定相続分と異なって又は一部の相続人に特定の遺産を継がせたい場合、遺産分割協議が難航する可能性が高い場合などには、遺言書を作成しておくことを特にお勧めしています。
1つ目の、法定相続人以外の者(法人を含む)に遺産を渡したい場合(これを「遺贈」といいます)には、遺言書の作成が不可欠です。事実婚関係の配偶者に財産を残そうという場合、先に亡くなってしまった子どもの配偶者にお世話になったので遺産を渡したい場合などです。法定相続人がいない場合も、そのままですと財産は国に渡ってしまうこともありますので、遺言書を作成してあなたが遺産を渡したい先(お世話になった方や慈善団体など)に渡すことを考えてみてください。
2つ目の、法定相続分と異なって又は一部の相続人に特定の遺産を継がせたい場合の例としては次のような場合があげられます。法定相続人の中に家業を継ぐ者がいてその者に事業用の財産を継がせる場合、逆に法定相続人の中にあなたと仲が悪い人がいてその者には継がせたくない場合、夫婦間に子供がおらず配偶者(妻や夫)にだけ全部の遺産を渡したい場合、長く別居しているものの離婚はしていない配偶者には遺産を渡したくない場合などがあります。
最後の、遺産分割協議が難航する可能性が高い場合の例としては、子どもたちの間に対立がある場合、先妻との間の子どもと現在の妻との仲が悪い場合、海外など遠方在住の相続人がいる場合などがあげられます。相続人の中に未成年者がいる場合も、遺言書を作ったほうがよいでしょう(→Q13)。
遺言書の種類で代表的なものとしては、自筆証書遺言と公正証書遺言があげられます。
自筆証書遺言は、遺言を遺したい人が、その本文の全体、日付及び氏名を自書し、押印することが原則です。ただし、最近の法改正で、遺産目録については一定の要件の下で自書が不要になりました(→Q4)。自筆証書遺言には、偽造や紛失などの危険がありますが、法務局による保管制度(→Q4)を利用することで、その心配は小さくなりますし、遺言者が亡くなった後に行う必要がある家庭裁判所での検認手続(遺言書の状態を確認する手続)も不要となります。
公正証書遺言は、法律事務の経験豊かな公証人に遺言したい内容を伝え、作成してもらう遺言書です。少し費用がかかりますし、証人2人に立ち会ってもらう必要もありますが、偽造や紛失などの危険性がほとんどなく、後に無効になる懸念も小さい、確実性が高い方法ですし(→Q5)、検認手続も不要です。
そのほか、あまり使われませんが、秘密証書遺言というものもあります。
また、特別な状況下で認められる特別方式の遺言というものもいくつかあります。例えば、危篤状態にある人の話を3人以上の証人(相続人になる予定の人などは証人になれません)が聴いて書き取り、本人にも確認させて、その後に家庭裁判所の確認を得る、というもの(一般危急時遺言といいます)などがあります。
遺言は、法律で決まったスタイルで作成しなければ、無効とされてしまいます。自筆証書遺言の場合、遺言をするご本人が本文全文、日付及び氏名を自分の肉筆で書いて、押印しなければなりません(ただし、財産目録については法改正により手続が緩和されました→Q4)。訂正や変更についても細かくやり方が決められています。
自筆証書遺言は遺言者が自分一人で作成できるため簡単な方法ではありますが、ちょっとしたミスで無効となることがあります。それではせっかく遺言を書いた意味がありません。また、保管にも気を遣う必要があります。内容が不明確であったり、法定相続人の遺留分への配慮が足りなかったりすることで、かえって遺された人々の間での紛争の原因になる場合もあるようです。
自筆証書遺言を遺したい場合には、弁護士に遺言書やその案を見せて、内容や形式に問題がないかどうか確認してもらうことをお勧めいたします。
大きな改正点は2つです。
1点目は、遺産の目録の部分だけは手書きにしなくてもよくなったということです。パソコンで作って印刷したものでも構いません。不動産なら、法務局で取得できる登記事項や、市町村役場でもらえる固定資産の一覧といったものを使っても構いません。預金通帳のコピーでも大丈夫です。ただし、本文と一体として綴じなければなりませんし、それぞれの頁には、署名と捺印が必要です。2019年(平成31年)1月13日から使えることになっており、それより前に作成された遺言でこの方式を使ったものは、無効と扱われてしまいます。
もう1点は、自筆証書遺言を法務局が預かってくれる制度(自筆証書遺言書保管制度といいます)ができたことです。自筆証書遺言の場合、後に誰かに改ざんされる、見つけてもらえない、間違った形式のものを作ってしまって無効になってしまうなどの心配があります(→Q3)。この制度を利用すれば、遺言書の検索をすることが可能ですので、そういった懸念はかなり小さくすることができます。一方、遺言をしようとする人ご自身が、この保管業務を取り扱っている法務局(全ての法務局で取り扱っているわけではありませんので、かなり遠い場合もありえます)まで行く必要がありますので、例えば入院中の人は利用が難しいかもしれません。また、法務局所定の書式による必要がある点にも注意が必要です。一般の自筆証書遺言に比べて、少し不自由かもしれません。
公正証書遺言は、遺言をしようとする人が遺言の内容を口頭で公証人と証人2人に話し、それを公証人が「公正証書」という公的な文書にした遺言です。口頭とはいっても、事前にどのようなことを話すか、公証人にある程度伝えておくこともできます。公証人がいる公証役場という役所にあらかじめ予約をして赴くのが原則ですが、公証人に自宅や病院に来てもらうことも可能です。
公証人は、法律事務の豊かな経験をもっています。そのため、公正証書遺言は、自筆証書遺言と比べれば形式面での要件を満たしている可能性が非常に高く、遺言の趣旨も明確になります。また、平成元年以降に作成されたものであれば全国の公証役場において公正証書遺言に関するデータが一元管理されているため、相続人は遺言者が亡くなった後に遺言書を検索することができます(なお、保管制度(→Q4)によって保管されている自筆証書も同様に検索ができます)。
しかし、公正証書遺言でも、遺言書を作成した時に、遺言をした人がその意味内容を十分理解していたのかという「遺言能力」の問題を生じることはあります。公証人や立ち会いの証人が、その点も含めて確認したうえで遺言書が作られますが、後の裁判で、公正証書遺言が無効となってしまう例もないわけではありません(→Q6)。
また、これは自筆証書遺言の場合も同じことですが、遺言の内容によっては、遺留分を侵害している(→Q8)、特定の法定相続人の不満を招くなど、後日の紛争を招くこともあります。せっかく紛争を避けようと思って遺言書を作ったのに、そのために紛争が起きたのでは元も子もありませんので、公証役場に行く前に、遺言の内容に問題がないか、事前に紛争を防ぐ方策はないかなどを、ぜひ弁護士に相談されるようお勧めします。
遺言が有効であるためには、遺言をする人に、「遺言能力」が必要です。遺言の内容や、その遺言が生む結果を理解する判断力のようなものと考えてもらえばよいでしょう。遺言能力がない時期に書かれた遺言は、無効になります。
遺言能力は何歳から何歳まであるものでしょうか。「何歳から」については、法律が「15歳から」と定めていますが、「何歳まで」については、特に規定はありません。認知症や精神障害が疑われる方の遺言が有効かは、個別のケースごとに判断がされます。
その判断について、裁判では、①認知症等があったのか、あったとしてその程度がどのようなものであったのか、②遺言の内容がシンプルなものか難しいものか、③遺言の内容が合理的であり、そのような遺言をする動機があったといえるかなどから、総合的に判断されているという分析があります。①に関しては、遺言を作成した頃に認知能力検査(長谷川式簡易知能評価スケールなどが有名です)が行われていれば、その結果は重要な参考資料となります。ただ、それだけで決まるものでもなく、その頃の病院での診療記録、介護保険サービスについての認定調査票・サービス提供票などの記載も参考にしたうえで判断がされることになります。
あなたの場合、お兄様が保管していたお母様の遺言を無効だと考えるのであれば、これらの資料をできる限り用意した上で、この遺言を無効として遺産分割手続をするべきであると主張をすることになります。もっとも、そのような主張をお兄様が交渉で受け入れる可能性は低いでしょう。多くの場合、そのような主張は、裁判を通じて認めてもらう必要があります。そして、その裁判はかなりの負担を要します。
認知症が進んでいたお母様の遺言は無効だ、という主張をお考えの場合、早めに弁護士に相談されることを強くお勧めします。
ある人(「被相続人」といいます)の死亡により相続人となると法律で定められている親族が法定相続人です。
まず、配偶者(妻や夫)が相続人となります。
これ以外は、第1順位として子が相続人になります。先に亡くなっている子がいる場合は、その子の子(孫)がいれば、その孫が第1順位となります。これを「代襲相続」といい、この場合の孫のことを「代襲相続人」といいます。
第1順位が誰もいない場合の第2順位の相続人は、直系尊属、つまり父母や祖父母などです。
第2順位もいない場合の第3順位は、兄弟姉妹です。ここでも、既に死亡している兄弟姉妹について、その子、つまり亡くなった被相続人から見た甥姪がいれば、「代襲相続人」と扱われ、先に亡くなった兄弟姉妹が生きているものとして考えます。子の場合の孫と同じですが、子の場合には曾孫や玄孫も代襲相続人となるのに対し、兄弟姉妹の場合は甥や姪の子(大甥・大姪)は代襲相続人にはならないという違いがあります。
配偶者と各順位の相続人の法定相続の割合は、次のとおりです
配偶者と第1順位:配偶者2分の1 第1順位合計2分の1
配偶者と第2順位:配偶者3分の2 第2順位合計3分の1
配偶者と第3順位:配偶者4分の3 第3順位合計4分の1
各順位の相続人間の相続割合は原則として同一です(兄弟姉妹の場合には例外があります)。代襲相続の場合、先に亡くなった元々の相続人が相続するはずだったものを、その子たちで均等に分けることになります。
なお、以前に亡くなった人の相続の場合、割合が異なっている場合がありますので、かなり前の相続事件の場合には注意が必要です。例えば、昭和55年12月31日以前に亡くなった方の相続の場合には、相続人の法定相続分の割合は現在のものとは異なります。また、被相続人の子どもの中に夫婦の間の子どもと結婚していない相手との間に生まれた子どもがいる場合の割合についても、少し以前の相続の場合(正確にはいえないのですが、大まかには、20世紀中に亡くなった人についての相続)には、扱いが異なりますので、注意が必要です。なお、外国籍の人が亡くなった場合には、その人の国の法律によって法定相続は決まります(→Q20)。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(→Q7)について、被相続人(亡くなった方)の財産から受け取ることが保障されている最低限の取り分であり、被相続人の生前の贈与や遺言によっても奪われない部分のことです。配偶者や子(孫なども含む)の場合は、法定相続分(→Q7)の半分、父母や祖父母の場合は3分の1です。なお、兄弟姉妹については遺留分がありません。甥や姪も同じです。
例えばAとBの2人の子どもだけが相続人であるケースで、遺言の内容が、Bだけに全部遺産を渡すものだったり、他人Cに全部渡すものだったりしたとします。Aは、遺産のうち4分の1に対して遺留分を有していますが、それだけの価値を獲得できない状態となっています。この状態を、「遺留分を侵害されている」といいます。
遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者。上記のA)は、侵害した人(上記のBやC)に、その侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。これを、遺留分侵害額請求といいます(なお、金銭の支払を請求できるものとなったのは令和元年7月1日以降に亡くなった方の遺留分の場合です。それより前に亡くなった方の相続についての遺留分制度は、これとはかなり異なっていますから、注意が必要です)。
この遺留分侵害額請求は、原則として、遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺言があったことを知った時から1年以内、又は相続開始の時(被相続人死亡の時)から10年以内に、侵害をしている人(BやC)に対してしなければなりません。それらのどちらか早い方の期間を経過しますと、遺留分侵害額請求権は消滅します。
この請求は、通知さえしておけばよいものです。口でもメールででもいいのですが、この期間内に通知したことを証拠化するために内容証明郵便で通知するべきです。
実は遺留分侵害額請求の実際の計算は非常に複雑です。遺留分を侵害されたのではと考えたときには、必ず弁護士に相談されるようお勧めします。
相続人たち、例えば子どもたちで遺産分割協議をする際に、その相続人の中の一部が、故人(被相続人)から、結婚などのためにある程度価値のある財産を、生前に贈与されているという場合があります。あるいは、遺産のうちの一部についてだけ相続人のうちの誰かに相続させると書かれた遺言があり、残った財産について遺産分割協議をするという場合もあります。こういう場合の遺産分割協議では、その贈与や遺言で財産をもらった相続人は、自分が相続する分の一部を既に受けたものとして、その者の相続分を減らす計算をすることになります。このように、いわば先にもらった財産・遺産を「特別受益」といいます。
具体的な計算方法を説明しましょう。まず、もらった特別受益分をいったん遺産全体に戻したことにします(これを「持戻し」といいます)。そのうえで各相続人の相続割合を乗じて、それぞれが相続する額を算出します。お尋ねのケースで、相続人があなたとそのお兄様だけで、遺された遺産が3000万円だとしますと、1000万円の「持戻し」をして遺産を4000万円と考えたうえで、2分の1を掛けます。したがって、3000万円の遺産についてのあなたの相続額は2000万円、お兄様は1000万円となります。
もっとも、被相続人が、これは法定相続分の一部の先渡しではない、特定の相続人(ここではお兄様)に法定相続分より多く財産や遺産を渡すのだ、との意思を示していた場合には、この「持戻し」の計算をしません。このような被相続人の意思表示を「持戻し免除の意思表示」といいます。
したがって、本件では、この1000万円の贈与について、お父様が持戻し免除の意思表示をしていたかが問題となります。遺言書やその他の文書に明確に書かれていればこの意思表示も認められやすいのですが、そういうものがない場合でも、色々な事情から意思表示があったと認められる場合もあります。なお、長年一緒に暮らしていた配偶者に住居を贈与したといった場合については、原則として、持戻し免除の意思があったものと扱われます。
事案ごとに寄与分(→Q10)や特別受益にあたるかどうかといった判断は難しく、遺産分割協議や調停などの手続内でもこれらが問題になることが多くあります。弁護士に相談されることをお勧めします。
相続人の中に故人(被相続人)の財産を維持・増加することに特別の寄与をした相続人がいる場合には、その寄与を金銭的に評価して、それぞれの相続人の相続分が算定されることになっています。これを「寄与分」といいます。生前のお父様への毎月10万円の給付が寄与分として評価されるなら、その分が相続分に反映されることとなります。
ただし、相続手続の中で寄与分として扱われるのは、その相続人に、被相続人の財産の維持又は増加について、「特別の」寄与があった場合に限られます。裁判所での遺産分割手続になった場合には、個々具体的な事案の内容によって裁判官が寄与分があったといえるのか、あったとしていくらと評価するのかを判断します。
ご相談のようなケースでは、お父様はどのような生活状況だったのか、他の相続人たちはどうしていたのか、などから判断されるでしょう。ただ、親子などの親族の間には扶養の義務(生活の面倒をみる義務)があるため、毎月10万円をお父様に渡していても、「特別の」寄与とはなかなか認めてもらえないように思われます。
なお、寄与分に関しては、相続人以外の親族が療養看護に努めた場合、相続人にその寄与に応じた額の金銭(特別寄与料といいます)を請求することができるようになりました(→Q11)。
平成30年の相続法の改正により、相続人以外の親族が、故人(被相続人)に対して無償で療養看護などを行って、故人の財産の減少の防止や増加について「特別の寄与」をした場合には、その親族自身が、相続人らに対し、特別寄与料を請求できると規定されました。つまり、あなた自身の取得する遺産が増えるということでなく、息子さん自身にそのような権利が認められたことになります。
これまでは、相続人自身がこのような寄与をした場合には、寄与分(→Q10)という制度によって、相続分を増やすことができました。しかし、相続人自身ではない家族の貢献を考慮して相続分に反映させることはできませんでした。相続人である「長男」を手伝ったのだという理屈で反映させる手段もありますが、先にその長男が亡くなっているような場合には、この理屈が使えないこともあります。そのため、相続人自身の相続分という形ではなく、実際に療養介護などを行った相続人以外の親族自身の権利として、このような寄与、貢献を考慮する制度を創設したのです。
話し合いでそれが決まらない場合には、寄与をした親族自身(相談の例では息子さん)の申立てにより、家庭裁判所に決めてもらうことができます。ただし、この申立ては、遅くとも相続の開始(故人の死去)から1年以内にしなければならないといった、少し厳しい時間的制約がありますので、注意が必要です。
亡くなった人(被相続人)の借金などの金銭債務は、原則として、法定相続人に、法定相続の割合(→Q7)で引き継がれます。「○○だけが借金全額を相続する」と遺言に書いてあっていても、あるいは相続人の話し合いで決めても、お金を貸しているほうが了解しなければ、相続人は、借金から逃れることができません(→Q15)。逃れるには、家庭裁判所での相続放棄の手続が必要です。
相続放棄とは、相続人が被相続人(故人)の死後に故人の権利も義務も一切引き継がないこととするための家庭裁判所での手続です。主として、被相続人が資産と比較して多額の借金などを負っていた場合に検討すべき手続となります。
相続放棄は、ある人が亡くなって、自分がその故人の相続人となったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所にその旨を申し立てて行います。この申立てのことを「相続放棄の申述」といいます。「知った時」とは、被相続人が亡くなった時が多いでしょうが、しばらく経ってから亡くなったと連絡があればその時ですし、第1順位の相続人である子どもが相続放棄をしたので第3順位である弟(→Q7)が相続人となったといった場合には、先順位の相続放棄があったことを知った時が、ここでの「知った時」となります。
この3ヶ月という期間は、家庭裁判所に申し立てて、延ばすことができます。何度も延ばすことは難しいようですが、1回、3ヶ月程度は延ばしてもらえることが多いようです。
相続放棄の手続は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄する旨を記載した書面(相続放棄申述書)を提出することにより行います。期間を延ばす手続も、その家庭裁判所に行います。
相続放棄の申述には、相続放棄申述書のほかに、戸籍や除籍など、被相続人が亡くなったこと、申述をする人が被相続人の法定相続人であることなどを判断できる公的資料の添付が必要です。ただ、それらを用意していると期間内に間に合わない、という場合には、とりあえず相続放棄申述書だけでも受け付けてくれる場合が多いようです。相続放棄を検討される際は、家庭裁判所か、あるいは弁護士にご相談ください。
家庭裁判所で、お子さんたちの特別代理人を選任してもらったうえで、遺産分割協議を行う必要があるでしょう。
故人の財産は、そのひとつひとつについて、あなたが50%、2人のお子さんが25%ずつの共有となっています。このような共有状態のままでは不便ですので、例えば不動産と車とA銀行の預金はあなたが、B銀行とC銀行の預金はそれぞれが取得する、という具体的な分配を決定する手続が遺産分割協議です。話し合いで解決しなければ、家庭裁判所での調停(→Q16)をすることになります。
未成年のお子さんたちは、遺産分割協議でどの遺産を自分がもらうかといったことを自分だけで決めることが認められていません。親権者が代わりに遺産分割協議をするか、あるいは親権者の同意を得て遺産分割協議をする必要があります。お父さんが亡くなられましたので、お母さんであるあなたが遺産分割協議をする、ということになりそうに思えますが・・・。
しかし、この遺産分割協議では、あなた自身も財産を取得します。良い物を自分が取得して、子どもさんたちには使い勝手が悪いものを取得させる、ということもできなくはありません。このため、特別代理人とは、その遺産分割協議でお子さんのために活動する代理人であり、家庭裁判所によって選任されます。特別代理人はお子さんたちの意見も聴きお子さんたちの意思を反映させながら、適切に遺産分割協議を行うための制度です。
成年か未成年かは、相続があった時ではなく、遺産分割協議の時を基準にして決めます。相続開始時点では未成年でも、その後に成人すれば、自分だけで遺産分割協議が可能になります。なお、2022年3月末までは「未成年」といえば19才までですが、2022年4月以降は17才まで(18才から成人)となります。
以上は遺言がないことを前提にお話ししました。遺言があって、例えば「自宅とA銀行の預金は妻に、B銀行の預金は長男に、C銀行の預金は長女に相続させる」などと書かれていれば、遺言執行者による遺言執行をすることで、特別代理人の選任を避けることができます。悲しい話ですが、死期が迫っている方で未成年のお子さんがいる場合も、遺言を作成したほうがよい場合(→Q1)の一例といえるでしょう。
お気持ちはわかりますが、それはできません。
以前は、このような場合、お父様が亡くなった時点で、銀行預金は法定相続分に従って分割されて、各法定相続人に帰属することになると考えられていました。したがって、遺産分割協議をしなくても、自分の相続割合分は、銀行に請求すれば支払ってもらえると考えられていたのです。しかし、その後、最高裁の判断や法律改正により、銀行預金も遺産分割協議が成立するまでは引き出すことができないことになっています。
そうなりますと、被相続人の蓄えを使えないために、例えば葬儀費用が支払えないといったことも懸念されます。このため、現在の法律は、相続対象の預貯金の相続開始時(故人の死亡時)の残高の3分の1に、ご自分の法定相続割合を乗じた金額については、遺産分割協議が成立する前であっても、引き出すことができるとしました。ただし、その金額は、1つの金融機関ごとに150万円が限度です。お父様が、亡くなった時点でX銀行に600万円の預金を遺しておられれば、あなたはそこから100万円を下ろすことができることになります。1200万円を遺しておられれば、3分の1の2分の1(法定相続割合)は200万円となりますが、150万円という限度がありますので、それを超えての引出はできません。
それを超える額を遺産分割協議が成立する前に下ろす必要がある場合には、家庭裁判所での仮処分という手続をとり、その必要性を説明して、認めてもらう必要があります。
あるいは、相続全体については争いがあっても、X銀行のこの預金の分け方について争いがなければ、他の相続人と、部分的にこの預金についてのみ遺産分割の合意をして、預金を引き出すことも検討してはいかがでしょうか。
あなたも借入金の支払を求められるおそれがあります。
被相続人(亡くなったお父様)の金銭債務(借金など)は、法定相続人が法定相続割合(→Q7)で、いわば自動的に分割して引き継ぎます。あなたとお姉さんだけが相続人であれば、お父様の借入は、半分はお姉様が、半分はあなたが引き継ぐということになります。あなたとお姉様の協議で「借入金も姉が全部引き継ぐ」と取り決めても、それだけでは、その取り決めは銀行に対して効果を持ちません。財産の大半はお姉様のものになるのに借入金の半分はあなたがかぶるということにもなりかねないのです。やむなくあなたが半分を銀行に支払えば、あなたはお姉様にその分を「返して」と請求できますが、お姉様が倒産していたりしますと取りっぱぐれることになります。相続放棄(→Q12)をすればあなたが支払わなければならない懸念はなくなりますが、そうすると、あなたはお父様の財産については、仕事用のもの以外も相続できなくなってしまいます。
銀行からの借金もお姉様に全額引き継いでもらいあなたが支払を免れるためには、お姉様とだけではなく、その銀行からも、あなたの分の借金もお姉様だけが責任を負うという点について了解を得るという方法も考えられます(これを「免責的債務引受」といいます)。
応じる銀行も多いと思いますが、もし応じてくれなければ相続放棄をしようと思っているのであれば、相続放棄のタイムリミット(→Q12。原則3ヶ月)を念頭に置いて、少し急いで行動する必要があります。
有効な遺言書が作成されていない場合や、遺言書があっても全ての遺産の帰属先までは決まらない場合、まずは相続人間での話し合い(遺産分割協議)により、どのように遺産を分割するかを決めることを目指すことになります。
この話し合いで遺産分割協議が成立しないときは、どの相続人も、家庭裁判所に、遺産の分割を請求することができます。そして、家庭裁判所では、原則としてまずは遺産分割の調停が開かれます。調停とは、2人の調停委員と裁判官又は家事調停官(弁護士)が仲介して円満な解決をあっせんする話し合いの手続です。調停が不成立の場合には、審判手続へと進行します。審判とは、家庭裁判所が資料に基づいてどのように遺産を分けるかを決定する手続です。
ただし、相続人の間で、ある財産が遺産に含まれるかどうかや、遺言書が無効であるのではないかということについて争いとなって解決しないなどの場合には、別に民事訴訟手続が必要となります。特にこのような場合は、紛争が長期化することもあります。
遺言書を作成する際、特定の相続人予定者(なお、現時点で相続が発生した場合に法定相続人になる予定の人のことを「推定相続人」といいます。)に一切の財産を相続させないと書くことはできます。ただし、その推定相続人に遺留分(→Q8)がある場合、その相続人は、被相続人の死後に遺留分侵害額請求権を行使することできます。息子さんには遺留分がありますから、仮に何も与えないという遺言状をあなたが作成しても、通常の相続分の半分の遺産を実質的に取得する可能性が大きいでしょう。
法定相続人を、いわば相続人でなくしてしまう方法としては、「廃除」という手段があります。廃除が認められれば、遺留分もなくなります。
廃除には、あなた自身がご存命のうちにする方法と、遺言状に書いておいて死後に遺言執行者などに行ってもらう方法の、2種類があります。どちらも、家庭裁判所への申立てが必要です。
ただし、この廃除が認められるのは、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他著しい非行があったときに限られます。家庭裁判所で、このような事由があったかについては証拠を通じて判断されます。廃除についての家庭裁判所のハードルは高く、特に死後に廃除をしようとしても通らないケースが多いようです。また、その息子さんにさらにお子さん(あなたにとってお孫さん)がいる場合には、息子さんが廃除になってもお孫さんが代襲相続人(→Q7)となり遺産を取得することにも注意が必要です。
本件のように、息子さんが10年間実家に戻っていないという内容のみでは、被相続人、つまりあなたに対する著しい非行とはいえないため、推定相続人の廃除は認められないでしょう。
夫が妻と長男を遺して亡くなり、遺産は夫婦で生活していた時価1500万円の自宅、そして預貯金という例を考えましょう。遺言はないものとします。妻としては、この自宅に住み続けるために自宅を相続で取得したいところです。ただし、妻の相続割合は半分ですから、預貯金も総額1500万円の場合、自宅を取得した妻は預貯金を全く相続できないことになります。預貯金がもっと少なければ、逆に長男に金銭を渡す必要があります。長男にこの自宅を取得してもらったうえで借りるという方法もありますが、家賃を払うのは負担になりますし、かといって使用貸借(無償での貸借)だと権利としてとても不安定です。
配偶者居住権とは、「配偶者(妻)が、自宅の所有権を他の相続人(例えば長男)に取得させたうえで、無償で暮らし続けることができる権利」です。平成30年の法改正によってできたもので、令和2年4月1日以降に亡くなった方の相続に使えます。遺言に書かれている場合のほか、遺産分割協議や家庭裁判所での調停・審判(→Q16)を経てこの制度を使うこともできます。原則として生涯住むことができることますが、「○○年間住むことができる」という決め方も可能です。
配偶者居住権の価値は、不動産全体の何割という形で計算されます。冒頭の1500万円の不動産についての配偶者居住権が500万円と評価されれば、妻は預貯金からも相続することができることになります。この評価に用いる「何割」という割合は、その配偶者居住権が何年間続くかによって変わって来ます。生涯にわたる配偶者居住権の場合、特に配偶者が若い場合には、配偶者居住権の割合も大きくなります。
ただし、この権利は譲渡できず、人に使わせることもできません。配偶者居住権を取得したけれど、他の場所、例えば高齢者施設で生活をすることになったといった場合、いわば無駄な権利を取得してしまったことになります。所有権を取得する相続人(上の例では長男)にとっても、使用できず、売りにくい不動産を取得することになるわけですから、難色を示すことも多いでしょう。このほか、「何割」という割合をどう計算するかといった点も、新しい制度であるがゆえに、まだ実務上の運用が明確ではありません。
どういう場合に使うのがよいのか、見極めて行く必要があるでしょう。弁護士などへのご相談をお勧めします。
その公正証書を活用して、なるべく早く、あなたが相続をしたという登記をしてあなたの名義に移しておきましょう。
あなたの法定相続分は2分の1ですので、お母様の遺言で、それを超える分があなたのものになっています。しかし、平成30年の法律改正で、法定相続分(→Q7)を超える分を遺言で取得した場合には、そのことを登記しないと、「第三者に対抗できない」ということになりました。
これは、遺産分割協議によって、ある不動産について相続分を超えるものを取得した場合も同様です。
「第三者に対抗できない」というのは、例えばお父様が自分の法定相続分である2分の1の共有持分部分を誰かに売ってしまうと、あなたは、お父様の法定相続分である2分の1については、所有権を取得できなくなってしまうという意味です。あるいは、お父様に未払の借金があったり、税金の滞納があったりした場合には、お父様の持分が差し押さえられることもあり、その場合も同様です。
なお、不動産登記法という法律の改正により、令和6年4月1日の改正法施行日以降は、不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続当期の申請をすることが義務付けられます。この義務は、改正法施行日以前に相続が発生していたケースでも課されることとなっています。
せっかくお母様が書いてくださった遺言を生かすために、きちんと登記をしましょう。
相続についての法律は、亡くなった方の、亡くなった時点での国籍がある国の法律が原則として適用されます。例えば、誰がどれだけの割合で相続するのかといったことは、その国の法律によって決まります。お尋ねの方の事例の場合、韓国の法律が適用されることになります。相続をする側の皆さんの国籍は関係がありません。
韓国の相続の法律には、日本の相続の法律と、色々な違いがあります。配偶者(今回の場合であれば、故人の妻)の法定相続分と、子どもたち全員の法定相続分合計との割合は、日本法では1:1ですが、韓国法では1.5:1です。また、この場合に子どもたち全員が相続放棄(→Q12)をしますと、その時点で妻のみが相続人になります(日本の場合、子どもら全員が相続放棄をした場合には妻と尊属(父母、祖父母など)、さらに尊属が皆亡くなっていた場合や生きている尊属全員が相続放棄をした場合は妻と兄弟姉妹が相続人になります)。さらに、韓国法には、廃除(→Q17)の制度はありません。その他にも色々な違いがあります。日本の法律を前提に考えますと、間違えてしまうことがありますので、注意が必要です。
一方、日本に住んでおられた方が亡くなったという相続であれば、国籍に関係なく日本の調停などの手続(→Q16)を利用することができます。
外国の法律に基づく相続は特に複雑です。加えて、日本以外の国には事実上戸籍がありませんので、相続関係を証明する書類の取得も難しい場合があります。専門の弁護士に相談することをお勧めします。
生命保険にも色々なものがあります。被相続人(亡くなった人)が被保険者でその人が亡くなった場合に保険金が払われるものであり、保険受取人として相続人のうちの特定の人が指定されているものが最も多いでしょう。
特定の受取人が指定された生命保険金の請求権は、その受取人の固有財産であり、遺産に含まれないのが原則です。そのため、遺産分割協議が不要なのはもちろん、相続放棄(→Q12)をしても受け取ることができます。通常は特別受益(→Q9)にもあたらないと考えられています。
ただし、被相続人の死亡によって相続人その他の者が取得した生命保険金の多くは、相続税に関しては、相続財産とみなされます。その意味で、死亡生命保険金は、「みなし相続財産」と呼ばれることもあります。このため、相続人が支払うべき相続税額に影響することがあります。
遺言・相続に関するご相談は遺言・相続センターへ(無料電話相談)
06-6364-1205
(受付時間)平日:午前10時〜正午/午後1時〜午後4時30分
令和5年10月より受付時間を変更しております。