労働(労働者側) に関する問題に関しての相談例です。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることをいいます(男女雇用機会均等法11条1項)。男性社員の性的な言動により女性社員が苦痛を受けていることから、本件行為はセクハラにあたります。そこで、女性社員に損害が生じていれば、加害者たる男性社員に対し、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を求めることができるのは当然です。
では、会社に対しては何も主張できないでしょうか。
雇用機会均等法は、事業主に対し、職場におけるセクハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じる義務を課しています。この内容を具体化したものが、厚生労働省の定めるいわゆるセクハラ指針です(平成18年厚生労働省告示第615号)。事業主には、①職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確にして、労働者に周知・啓発すること、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備をすること、③職場におけるセクハラに係る相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、セクハラの事実確認ができた場合には、被害者と行為者を引き離すための配置転換や行為者の謝罪等の措置、さらには再発防止に向けた措置を講じる義務があります。
本件では、社員旅行中の宴会におけるセクハラが問題となっていますが、勤務時間外の「宴会」等であっても、職務との関連性、参加者、参加が強制的か任意か等を考慮して実質上職務の延長と考えられる場合には、「職場」におけるセクハラにあたり、事業主には同様の措置義務が課せられます。
そこで、セクハラの被害を受けた労働者としては、事業主に対して、セクハラの事実関係を迅速かつ正確に確認するよう求めるとともに、セクハラをした上司の配置転換や謝罪等の措置や、改めて職場でのセクハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じるよう求めることが考えられます。
なお、セクハラ被害に対しては、たとえば、宴会の雰囲気を壊してはいけないなどという思いから、その場でセクハラ行為に対して抗議できないということもあり、行為を受け入れていたのではないかと非難されることがあります。この点、厚生労働省・精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会のセクシュアルハラスメント事案に係る分科会の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会 セクシュアルハラスメント事案に係る分科会報告書」(2011年6月28日)は、セクシュアルハラスメント事案の心理的負荷の強度を評価するにあたって留意すべき事項として、「被害者は、勤務を継続したいとか、行為者からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、行為者の誘いを受け入れることがある。このため、これらの事実から被害者の同意があったと安易に判断するべきではないこと」を挙げています。仮に、セクハラに対して抗議、抵抗できなかったとしても、それだけで行為を受け入れていたとは言い難いででしょうから、事業主に対して、上記の措置を講じるよう求めていくことが考えられます。
一般的には以上のとおりですが、実際のセクハラ被害への対応方法については、セクハラ行為の内容やセクハラ行為が行われた状況、被害者とセクハラ行為者との関係(上司か、同僚か、等)、会社によるセクハラ防止策の有無・程度等の具体的事情により、千差万別です。そのため、万一セクハラ被害に遭ってしまった場合には、適切な解決方法を実現するためにも、早期に弁護士に相談することが重要です。
セクハラとは こちらの回答でも説明されているとおり、事業主は、職場におけるセクハラを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務があります。そして、職場におけるセクハラにつき、【1】「対価型セクハラ」(職場における性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること)と【2】「環境型セクハラ」(性的な言動により労働者の就業環境が害されること)の2種類に分類されています。たとえば、「対価型セクハラ」の例としては、部下に対する性的な関係を拒否された報復として解雇することなどがあります。また、「環境型セクハラ」の例としては、体に触る、抱きつく、卑猥な話をするといった性的な言動が挙げられます。性的な言動には、当該労働者に関する性的な情報の流布も含まれますので、課長(Y)がXに関する性的な噂を流した結果Xが職場に居づらくなったことは、環境型セクハラにあたります。このような課長(Y)の噂を流す行為は名誉毀損にあたりますし、雇用契約に伴い使用者が負う義務としての、良好な職場環境を維持する義務(職場環境配慮ないし調整義務)にも違反する行為です。
法的にどのような請求が可能か
(1)課長(Y)に対する請求
まず、課長(Y)の性的言動がXの名誉を毀損するものであることを理由として損害賠償請求をすることができます。
そのほか、課長(Y)の性的言動の継続性やXが職場に居づらくなり退社に至ったこと等から、精神的苦痛を受けた等を理由として損害賠償請求をすることも可能です。
(2)部長(Z)に対する請求
部長(Z)は、部下であるXが働きやすい職場環境を保つように適切に配慮・調整を行う注意義務(職場環境調整義務)を負っています。にもかかわらず、部長(Z)は、課長(Y)の性的言動を知りつつ何の対応もとっていないので、職場環境調整義務違反を理由とする損害賠償請求をすることも考えられます。
(3)会社に対する請求
課長(Y)の行為は、会社の信用に言及していることや、噂の相手方や発言の場などから見て職務に密接に関連する行為と考えられ、部長(Z)も部長として職場の管理をする職務を負い、(2)の義務違反は同人の職務に密接に関連していると評価できます。
そこで、Xは、会社に対し、課長(Y)及び部長(Z)の不法行為に関する使用者責任に基づいて損害賠償請求をすることができます(民法715条)。
会社が、セクハラが起こるような職場環境を放置していたような場合や、セクハラ被害を認識しつつ放置していた場合などには、働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務に違反したとして債務不履行責任(民法415条)を問う方法も考えられます。
(4)損害について
それでは、課長(Y)、部長(Z)、会社に対し、具体的にはどのような損害を請求することができるのでしょうか。
まず、Xは、職場に居づらくなり退職せざるを得ない状況に追い込まれたことにより精神的な苦痛を被っていることから、精神的損害として慰謝料を請求することができます。
また、課長(Y)、部長(Z)、会社が職場環境調整義務を果たしていれば、Xは退職せずに働き続けることができていたと考えられます。その場合は、退職時から現在に至るまでの間、会社から賃金を得ることができたはずです。したがいまして、財産的損害として逸失利益(退職後から現在に至るまでの賃金相当額)を請求することができます。
最後に
本件に関する回答は以上ですが、そもそも違法な侵害行為があったかどうかについては、加害行為の内容や態様など諸般の事情を考慮して社会通念上許容される限度を超えるものかどうかが判断基準となりますので、その判断については個々の具体的な事情によらざるを得ません。
また、慰謝料等の損害額についても種々の事情を総合考慮して判断されるものです。
したがいまして、個々の事例に則した適切な判断を仰ぐためにも、どのような法的請求が可能なのか弁護士に相談されることをお勧めいたします。
パワハラ(パワーハラスメント)とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為のことをいいます(労働政策総合推進法30条の2第1項)。上司による人格を否定するような発言は、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えるものなので、パワハラに該当します。 上司によるパワハラにより休職せざるを得なくなった場合、まず、会社に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。会社は、その雇用する者の不法行為により被害者に損害が生じた場合、使用者責任(民法715条)を負うこととされています。また、会社には、雇用される者が安全に働けるように配慮する義務(安全配慮義務)があり、職場内でパワハラ被害が生じたということであれば、会社がこの安全配慮義務に違反したとして、債務不履行責任(民法415条)を問うことも可能です。
次に、パワハラを行った直接の上司に損害賠償を求めることも考えられます。その場合には、上司によるパワハラが不法行為にあたるとして不法行為責任(民法709条)を問うこととなります。
以上のような損害賠償請求を行う場合、その損害の内容としては、治療費、仕事ができないことにより被った経済的損害、精神的損害(慰謝料)が考えられます。かつては、パワハラに基づく損害賠償請求が裁判所で認容されたとしても、損害額としては低額な慰謝料しか認められないことが多いと言われていました。しかし、最近では、被害者がパワハラに起因して重度の精神疾患(PTSD等)を発症した場合、それにより将来の労働が困難になった分の逸失利益についても損害として認められる事例も現れています。
ここで、裁判所によりパワハラに基づく損害賠償が認められるためには、その証拠が存在することが必要となります。パワハラにあたる行為が存在していたことを証明する証拠としては、録音・ビデオテープ、パワハラの被害内容を記載したメモ・日記、パワハラの目撃者がいる場合にはその人の証言等が挙げられます。メモや日記に関しては、それが作成された時期(被害にあった際に逐一記載されていたものか、後から一括して記載されたものか)、客観的事実を詳細に記載しているかどうかなどにより、証拠としての価値が大きく異なってきますので、その作成方法には注意が必要です。パワハラにより被った損害額を証明する証拠としては、医師の診断書、給与明細、休職証明書等が挙げられます。
その他に、休職中の賃金の補償を求める手段としては、労働基準監督署に対して労災申請をすることや、健康保険組合に対して傷病手当の申請をすることもできますが、その手続に際しても、診断書等の疎明資料が必要とされます。また、労災申請に比べて、傷病手当の方が早く支給されるのが一般的です。その後、労災認定されて休業補償給付の支給が決定されて、傷病手当金と休業補償給付が重複することになれば、併せて給付を受けることはできず、給付額が調整されることになります。
パワハラ被害への対応については、パワハラにあたる言動の内容とそれが生じた状況・頻度、会社側の上司の言動に対する対処、会社内での業務に関する指導研修体制等の具体的事情により、どのような解決が見込めるかが異なってきます。そのため、不幸にも現実にパワハラ被害に遭ってしまったときには、証拠の確保等を迅速に行い、適切な解決方法の見通しを立てるためにも、早期に弁護士に相談することをお勧めします。
結論
会社の残業代の支給方法については二つの問題があります。
一つは、(1)「特別手当」の支払いによって残業代が支払われたと認められるのか、もう一つは、(2)仮に「特別手当」の支払いによる残業代の支払いが認められるとしても、1万円以上の差額は請求できないのか、という問題です。
まず、(1)についてお答えします。このように、残業代を固定額の手当で支払う制度を「定額残業代」や「固定残業代」といいます。この「定額残業代」制度については、法律上の規定はありませんが、判例では、現実の時間外労働に対する労働基準法37条所定の割増賃金額以上の額が支払われていれば、直ちに違法にはならないとされています。ただし、その前提として、同条所定の額が支払われているか否かを判断できるように、割増賃金部分が判別できなければならないとしています。
すなわち、「特別手当」という制度そのものは直ちに違法とまではいえないということかと思われます。ただし、支払い額が適正であることや、時間外労働手当が基本給などのほかの費目から明確に分離して計算でき、残業代部分が判別できることが必要になるということです。
また、「特別手当」のような「定額残業代」の制度を運用するためには、このような制度について契約上の根拠が存在することが必要です。雇用契約書に明確に記載されていたり、勤務先会社の就業規則に時間外労働の割増賃金に代わる定額残業代の制度が採用されていることが記載されており、就業規則が周知されていることも、「特別手当」の正当性を根拠づける重要なポイントになるといえます。
まとめると、残業代を固定額で支払うことについて契約上の根拠があり、かつ、時間外労働手当が基本給などのほかの費目から明確に分離して計算でき、残業代部分が判別できることが必要であるということです。
次に、(2)についてお答えしますと、「定額残業代」はあくまで現実の時間外労働に対する労働基準法37条所定の割増賃金額以上の額が支払われていることが前提となっており、現実の残業代の額が「定額残業代」の額を上回る場合は、差額の請求が可能です。
つまり、Aさんが言うように、労働基準法に従った正当な計算方法によると、特別手当2万円を超える割増賃金が発生しているのであれば、その差額については請求することができます。
二つの問題については、これで回答となりますが、賃金の問題は、請求手続に問題があることや、「定額残業代」以外にも他の問題が隠れていたりすることもありますので、問題があると思った際には、弁護士に相談することをお勧めいたします。
店長が管理監督者であるのかが問題です。
使用者は、労働者に対して、休息時間を除いて、週40時間・1日8時間を超えて労働させてはならず(労働基準法32条)、これを越えて労働させるときには、割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。
しかし、これには例外があり、本件と関連するものでいうと、監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)については、労働基準法における労働時間に関する規定が適用されず(労働基準法41条2号)、週40時間・1日8時間を超える労働の場合にも、残業代を支払う必要はありません。
したがいまして、本件でいう大手飲食店チェーン店の店長が、管理監督者にあたらなければ、超過勤務分の残業代は請求できるということになりますし、管理監督者にあたれば、残業代は請求できないということになります。
管理監督者について、労働時間に関する規定が適用されないとされているのは、管理監督者が労働時間規制を越えて活動することが要請される重要な職責をもち、現実の勤務態様が労働時間規制になじまないからです。
そこで、ここでいう、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいうとされています。管理監督者に該当するかどうかは、名称にとらわれず、実質的に管理監督者としての権限と地位を与えられ、出退勤などの労働時間についての厳格な制限を受けず、このような地位にふさわしい賃金面での待遇が基本給や手当などでなされているかどうかにより、判断されます。
したがいまして、店長という役職であるだけで、直ちに管理監督者であるということにはなりません。店員のシフトが埋まらないときには店長がシフトを埋めなければならないことは、出退社の自由度が少なく管理監督者にはあたらない方向に働きそうです。そのほかに、出退勤時間の自由があるのか、店長として経営や人事に関する権限が与えられているのか、会社の規模や職務内容からして年額500万円の賃金が管理監督者にふさわしい処遇であるか等によっても、管理監督者にあたるか否かの判断は異なると思われます。
なお、管理監督者に該当するとしても、使用者は、労働者に対して、深夜労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。
このように、管理監督者であるかは、さまざまな事由を考慮して判断されるものですので、詳しい勤務条件や態様等の事情を示して、弁護士に相談されることをお勧めします。
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