2020.05.14
離婚した後に子どもの養育のために支払われるのが「養育費」です。これについて,「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」をみてみましょう。
母子世帯では42.9%が取り決めをしています。
そして取り決めをしている人でも、文書で作成している例が73.3%で、その文書も判決・調停・審判などの裁判所で作られた文書が58.3%,その他文書15.0 %となっています。
取り決めをしていない人の中で取り決めをしていない理由は
相手と関わりたくない 31.4%
相手に支払う能力がないと思った 20.8%
相手に支払う意思がないと思った 17.8 % となっています。
また,養育費受け取りの状況は以下の通りです。
現在も受けている 24.3%
受けていたことがある 15.5%
養育費を受けたことがない 56.0%
このように,統計資料からみても、離婚にあたっては、養育費に関する取り決めもあまりされておらず、養育費をもらっていない人も多くいることがわかります。
平成15年に,簡単に・すばやく養育費の額を判断できる「算定表」が作成されました。この算定表により、「収入」と「子どもの数」と「子どもの年齢」だけで簡単に養育費の金額が判断できるようになりました。そして、この度,この算定表の改訂版が令和元年12月に発表されました。家庭裁判所では,この改訂版算定表に基づいた判断がなされるようになっています。
改訂版の算定表では,15年前との生活スタイルの変化が反映され,統計資料も更新されています。 大きく変わっているところでは、0歳~14歳の子どもにかかる生活費が上がったこと、高額所得者が支払うべき金額が上がったことに特徴があります。なお,一部報道では改訂後の算定表は1~2万円程度のアップと掲載されましたが、0歳~14歳の子どもが多くいる場合や高額所得者の場合は金額が大幅にアップしていることもあるのでご留意ください。
これまでは,養育費を強制的に取り立てようと考えても,相手方の財産がどこにあるかわからず,あきらめなければならないことがよくありました。
しかし,最近の法改正により、裁判所で養育費についての文書を作っておけば,金融機関から、預貯金債権や、上場株式、国債等に関する情報を取得できるようになりました。来年からは,登記所から土地・建物に関する情報を取得することも可能となります。さらに、養育費等の債権を有する債権者の場合は、市町村・日本年金機構等から、給与債権(勤務先)に関する情報を取得することまでできるようになりました。これらの制度を利用して,相手方の財産を見つけて差押えができるようになることが期待されます。
また、大阪市や兵庫県明石市などでは、養育費の支払いを受けるためのサポート制度が始まったいます。なお、どのような場合にどのようなサポートが受けられるかは,それぞれの役所に個別にお問い合わせください。
上記の通り養育費の金額の増額や養育費の支払を強制する制度は,以前より整ってきています。しかし強制だけでは限界があります。特に離婚事件で子どもが関わる事件については、お互いの合意や自主的な解決が重要です。お互いに権利を主張するだけでは問題の解決にはなりません。子どものことを中心にお互いに親としてどのような義務を果たさなければいけないかという自覚が重要です。現在、大阪家庭裁判所では「親ガイダンス」を行っており、子どもがいる離婚事案では親としてどのような心構えが必要であるかをレクチャーしています。
例えば、養育費は請求するが子どもとの面会交流は理由なく拒むといった状態では、支払う側も進んで支払うことはしないでしょう。やはり養育費を支払うからには、子どもの成長をみたいでしょうし、どのような費用が本当に必要なのか、どのような協力が必要なのかを肌で感じるということも必要かと思います。他方で、子どもと同居していない親も,同居親や子どもの気持ちも理解せずに、ただ子どもの面会を主張するだけでは、うまくも行きません。お互いの気持ちも理解した上で、お互いに納得のできる範囲で子どものためにどれだけのことができるかという話し合いも大事かと思います。
離婚しても親子関係はいつまでも続きますので、長く続けることのできるような関係性を築くことが大事かと思います。
複雑に絡まった糸も冷静に一つ一つほどいていけば取り除くこともできますが、あまりに複雑だともう切ってしまうことでしか解決できないことにもなりかねません。弁護士は揉めに揉めた事案だけに対応するかといえばそうではありません。早く専門家に相談していただければ、どこに問題点があるか、どのようにして解決するべきかということもアドバイスできます。
また、相手とどうしても関わりたくない(たとえばDV被害があったなど)という場合でも、弁護士を代理人に立てることで、相手方とのパワーバランスを保ちながら、話をすることも可能になるかと思います。
争いが熾烈になる前に一度弁護士にご相談していただいてはいかがでしょうか。
<回答者>
大阪弁護士会 山本 健太郎 弁護士
【MBSラジオ1179ポッドキャスト 弁護士の放課後】
「養育費の算定方法の見直し」
https://www.mbs1179.com/hona_p/1579448758.shtml
※ご相談は各地域の法律相談センターへ直接お問い合わせください。