2020.04.17
物を買ったりサービスの提供を受けたりするとき,申込用紙の裏面やネットのサイトの途中に、少し細かい字で、その契約についての決めごとが書かれていることがあります。これを「約款」(やっかん)といいます。あなたが契約を申し込んだ場合、原則として、そこに書かれている内容に従った契約をしたことになります。
お尋ねのような宿泊契約の場合,パック旅行と違い,キャンセル料を具体的に定める統一的な約款は利用されていません。宿泊契約のキャンセル料は,原則として,宿泊施設が作成し使用している宿泊約款(「宿泊規約」「利用規約」といった名称の場合もあります)の定めに従うことになります。
キャンセル料の定めは,宿泊施設ごとに異なり,宿泊プランごとにも異なるのが通常です。まずは,ご自身の予約した宿泊施設の宿泊約款に,どのようなキャンセル料の定めがあるかを,契約書やインターネット,宿泊施設から送信されてきたメールなどで,確認してください。基本的には,その定めに従って,キャンセル料が返還される(あるいはされない)ことになります。
報道によれば,東京オリンピック関連では,キャンセル料を100%とする宿泊約款に基づく契約をした宿泊施設であっても,予約客からのキャンセルがあれば,宿泊料を全額返還してくれるところもあるようです。まずは全額返還の交渉をしてみてください。交渉によって返還を受けることができるかもしれません。
相談者のケースは,キャンセル料は100%とのことですので,この宿泊約款の定めに従わざるを得ないのが原則です。相談者の方が,あらかじめキャンセル料が100%であることを確認した上で,ホテル側とその内容で合意した以上,支払った宿泊料は返還されません。
しかし,キャンセル料は,キャンセルされた場合に宿泊施設側に生じるであろう損害の賠償を予定したものと考えられています。何か月も前にキャンセルしているのですから,宿泊施設側は,キャンセルされた客室を他のお客さんの宿泊に利用させる時間的余裕は十分にあるといえますので,キャンセルによって,宿泊施設側に宿泊料の100%相当額の損害が発生するとは,通常は考えらえません。
「消費者契約法」という法律は,解除による損害賠償の予定や違約金条項について,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除により事業者に生じるであろう「平均的損害」を超えるものは,その超える部分が無効になると定めています(法9条1項)。
宿泊契約にもこの条文が適用されますので,宿泊契約の解除に伴ってホテルに生ずべき平均的損害を超える部分は,無効となります。ご相談の例では,ホテルに生じる平均的損害が3万円に過ぎない場合には,その3万円を超える部分(7万円の部分)は無効となります(この「3万円」という金額はあくまで仮定の金額です。どのケースにおいても「3万円」という訳ではなく,ご相談の事例ごとで金額は異なりますのでご注意ください。)。
ご相談のような料金設定であれば,キャンセル料を100%とする定め,つまり全く返金をしないという定めは,平均的損害を超える部分(無効となる部分)があると判断されることは十分に考えられますので,この点を争うことにより,支払った代金の一部の返還を受けることができる可能性があると考えられます。
色々なイベントが中止になっていますので,ライブや結婚披露宴の中止や延期という場合にもこういう問題には直面しますね。ただ,「平均的損害」がいくらかというのはなかなか難しい話です(弁護士に頼んで裁判までは・・・と思われるでしょうが,裁判ではなくても,ご本人の交渉では断られたものが,弁護士が消費者契約法に基づいて交渉することで解決することもあります。また,各自治体の消費生活センターにも,ご相談ください。消費者問題に関する専門知識を持つ消費生活相談員の方々がアドバイスや交渉の支援をしてくれます。
大阪弁護士会の新型コロナウイルスに関する法律相談は,労働問題に限らず,これと関連する色々な相談に対応するために拡充中です。まずはお電話をしてみてください。
<回答者>
大阪弁護士会消費者保護委員会
薬袋 真司弁護士
茂永 崇 弁護士
※ご相談は各地域の法律相談センターへ直接お問い合わせください。