2019.03.18
病気をきっかけに,秀吉さんは,相続のことを考え始めました。
相続人は,来年金婚式を迎える妻寧々さんと唯一の子どもの秀頼さんとなりそうです。一緒に暮らしている自宅(評価1000万円)を妻の寧々さんに贈与しようと思います。この贈与をし,秀吉さんが亡くなった時に残った遺産が1000万円の預金だけとして,その預金は,①寧々さんと秀頼さんで各500万円の相続となる,②全額秀頼さんのものとなる,のどちらでしょう。遺言など,特別な意思表示を残していないものとします。
寧々さんへの贈与が2019年7月1日以降にされた場合は①,それまでであれば②です。
相続人が生前贈与を受けた財産は、公平のため、「遺産の先渡し」として、遺産に加えて計算することになっています。「特別受益の持ち戻し」という制度です。
妻寧々さんの法律による相続の割合は2分の1ですので、「持ち戻し」をして考えますと,得られる相続財産の価額は,
(1000万円(預貯金)+1000万円(自宅))×1/2=1000万円
です。ただ,寧々さんは既に1000万円の自宅の贈与を受けていますので、遺産分割の際には、預貯金からは一円ももらえないのが原則です。
秀吉さんは,贈与分は相続分とは別で,相続時に寧々さんに預金からの500万円も受け取らせたいと考えるなら,それを遺言などに書き残す必要があります。それにより,寧々さんは、いわば例外として,預金からも,
1000万円(預貯金)×1/2=500万円
を相続できる,というのがこれまでの法律でした。
今回の相続法の改正において、結婚してから20年以上の夫婦間で、住んでいる建物や土地を2019年7月1日以降に贈与などした場合には、原則として「遺産の先渡し」とは扱わないことになりました。「持戻し免除の意思表示の推定」という制度です。秀吉さんが,特に何も書き残さなくても,①となるのです。
一方、②,つまり「残った預金1000万円は全部秀頼に渡そう」という気持ちであれば,秀吉さんは,2019年7月1日以降に行う寧々さんへの自宅の贈与については,「寧々への自宅の贈与は遺産の先渡しである」という気持ちを,遺言などで残しておく必要があります。7月1日から,この点は,原則と例外が逆になるのです。
注意が必要な難しい問題は,「遺留分」との関係です。秀吉さんの遺産(寧々さんが贈与されたものも含む)の4分の1を受け取ることができる権利が、秀頼さんの「遺留分」です。もしこの自宅の価値が3000万円であれば、預金1000万円全額を秀頼さんに渡ることになります。さらに、自宅が5000万円であれば預金が秀頼さんのものになるだけではなく寧々さんは500万円分を渡さなければなりません。これらは,秀吉さんがどのような遺言を残していても変えられないのです。
「気持ち」をどう残すかは,実は難しい問題です。秀吉さん、寧々さん、秀頼さんの立場にある方、弁護士に相談してみませんか。
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