2018.12.25
夫のAさんが急死した妻のBさん。一緒に住んでいた分譲マンション(評価2000万円)に住み続け,預金(800万円)からも老後の生活資金も得たいと思っています。遺言はありません。ただ,Bさん,Aさんの唯一の子どもCさんと仲が悪い。Bさんの希望を叶えるのは,今の法律では意外と難しいのです。それが相続法の改正で2020年から変わります。
現在の法律では,マンションに住み続けるには,Cさんとの話し合いや家庭裁判所での遺産分割手続で,このマンションの所有権を所得しなければなりません。しかし,Cさんも1400万円分の遺産を要求する権利がありますから,Bさんは,マンションの取得のためには,CさんにAさんの預金全額を渡し,さらに600万円の金銭(代償金といいます)を払わなければなりません。
Cさんが遺産分割でマンションを取得し,BさんはCさんから借りればよさそうです。しかし,それにはCさんと賃貸借契約を結ぶ必要があり,家賃が必要です。家賃を支払わない「使用貸借」という契約もありますが,その場合はBさんが住み続ける権利は,Cさんがマンションを売れば消えてしまうなど,かなり不安定なものになります。そもそも,BさんとCさんの仲では,Cさんが貸し借りを了解することが難しそうです。
相続に関する法改正で,「配偶者居住権」という権利ができました。遺産分割協議の中で,マンションの所有権はCさんが取得して,Bさんがこの配偶者居住権を取得すれば,ここに無償で住み続けることができるのです。配偶者居住権はマンション自体の評価よりかなり安いため,例えば900万円と評価されれば,Bさんは,貯金のうち500万円も取得できます。使えないマンションを相続するCさんは難色を示すでしょうが,最終的には,家庭裁判所が,そのようにしなさいと決めることもあります。
ただ,この配偶者居住権をどれだけの値段と評価するのかについては,これから議論がありそうです。
このほか,「配偶者短期居住権」という権利もできました。遺産分割の結果,あるいは相続放棄などによって,マンションの所有権も配偶者居住権もBさんが相続せず引っ越すことになった場合,越すまでの間の家賃分はどうかが現在の法律では問題だったのですが,Bさんのような配偶者は,一定の期間(最低6カ月),マンションに無償で住むことができて,遡って家賃分を求められたりしないという権利です。
ただし,これらの制度は,2020年4月1日以降に亡くなった方の相続について利用できるものです。設例のBさん自身は,まだこの制度を使えません。 これらの制度の開始を見込んで今からどんな相続を設計するのか。弁護士に相談してみませんか。
今回の相続法の改正では,結婚して20年以上経った夫婦の間で行われた自宅の贈与は,原則として,遺産の先渡しには当たらない(贈与された自宅の分以外に法定相続分の遺産分割を受ける権利が認められる)という制度も創設されました。この話は,次の法律トピックで。
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