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特別受益の「時効」?(相続法の改正)

2023.05.12

亡父は弟を溺愛しており、自宅の建築資金や起業資金も渡していました。そのためもあって私と弟は疎遠になりました。相続人は私たち2人だけなのですが、父の死後9年あまりが経った今でも、遺産分けができていません。知人から、先日、「今年(令和5年)4月から法律が変わってそういう生前贈与は親父さんが死んで10年経つと相続で考慮されなくなるらしい」と言われ、焦っています。

 

1 すぐには法改正の影響は受けないけれど

確かに法律は改正されましたが、それによる不利益がすぐにあなたに及ぶわけではありません。ただ、なるべく早く遺産分割の手続(家庭裁判所の調停など)に取りかかることをお勧めします。

 

2 特別受益

弟さんのように、生前に故人から生活費などとして受けた贈与は、「特別受益」と呼ばれ、遺産の先渡しと扱われます。お父上が亡くなった時点で4000万円の遺産があった場合、特別受益がなければお二人は2000万円ずつ遺産を取得しますが、生前の弟さんへの1000万円の特別受益があった場合、これを考慮しますと、遺産の4000万円は、あなたは2500万円、弟さんは1500万円と分けることになります。特別受益は、家庭裁判所で行われる遺産分割の調停の場面で、しばしば議論の対象になります。

3 相続から10年経つと「特別受益」は無視されることになった

令和5年4月1日に施行された法改正で、この特別受益は、相続が開始してから、つまり故人が亡くなってから10年を経過した場合には、主張できないということになりました。没後10年以内に遺産分割が終わらず、家庭裁判所に遺産分割の調停等を申立てもしていなければ、特別受益は無視されることになるのです。上記の例では、2000万円ずつの遺産分割となるわけです。
ただし、平成30年3月31日以前に亡くなった方の相続の場合、令和10年3月31日までに遺産分割の申立てを行えば特別受益を主張することができます。お父上が亡くなったのが例えば平成26年でも令和6年までに遺産分割を終えたり遺産分割の調停を申し立てたりしなければならないわけではありません。亡くなられたのが平成24年というケースでも同様です。令和10年3月末までに遺産分割を終えるか、遺産分割調停の申立てを行えばよいのです。

4 調停の申立てを検討してみてください

遺産分割の多くは、裁判所での手続を経ず、話し合いで解決します。しかし、話し合いが難しい場合には、家庭裁判所で調停をする必要があります。「調停」とは、裁判所で行う話し合いの手続です。ただし、話し合いで解決しない場合には、裁判官が、どういう遺産分割をするかを決める「審判」を行います。意見が一致しないからいつまでも決まらないというものではありません。
あなたの場合も、調停手続を考えたほうがよさそうです。ちなみに、弟さんから調停の申立ては当分なされないでしょう。弟さんは、令和10年4月1日をすぎてから、つまりあなたが特別受益の主張をできなくなってから申立てをしてくるように思います。そのほうが自分に有利ですから。

 

5 調停は早目に申し立てたほうがよいでしょう

特に弟さんの生前の特別受益を主張したいのであれば、今回の法改正によって設定されたタイムリミットはまだ先だとしても、早期に申立てをするほうがよいと思います。資料を集める場合、時間の壁に突き当たることがしばしばあるからです。例えば金融機関に古い入出金の記録の提出を求めても、10年くらい経ちますと、記録は残っていませんといった回答が返ってきてしまいます。

6 寄与分の主張にも期間制限が設けられる

一方、相続人のうちの1人が、故人が営む事業に労力や財産を提供する、療養看護を行うなどにより、故人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合には、相続分が法定相続分より加算されることがあります。これを「寄与分」といいます。特別受益といわば対を成す制度です。
この寄与分についても、今回の改正により、故人が亡くなってから10年を経過すると認められなくなり、それまでに家庭裁判所に調停等の申立てをしなければならないことになりました。こちらについても平成30年3月31日より以前に亡くなった方の相続については、令和10年3月31日までに調停を申し立てればよい、という猶予期間が設けられています。

7 相続の相談は弁護士に

相続は、揉めないのが一番ですが、残念ながら争いが生じることもあります。故人に遺言を作っておいてもらうのは、それを避けるとてもよい方法でしょう。ただ、それでもやはり争いが生じることはあります。
そういった争いを解決できるのは弁護士だけです。家庭裁判所での手続は、弁護士以外は代理人になることはできません。紛争を解決するために代理人として話し合いができるのも弁護士に限られています。穏やかな解決も必要ですが、適正な解決のためには、時としてきちんとした主張も必要です。そのお役に立てるのは弁護士です。

<回答者>
大阪弁護士会 広報室

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