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侮辱罪の刑が重くなったと聞きました。どのように変わったのか、教えてください。

2022.06.22

侮辱罪の刑が重くなったと聞きました。どのように変わったのか、教えてください。

1 侮辱罪の刑が厳しくなる

2022年6月13日に国会で成立した刑法改正で侮辱罪の刑が重くなり、これまでの「拘留又は科料」のほかに、1年以下の懲役・禁錮や30万円以下の罰金も加わりました。この夏にも施行されると報道されています。

これは、今後は侮辱罪の嫌疑で逮捕されることもあるということを意味します。何度も同じ行為を繰り返したような場合、刑務所で実際に刑に服することになる可能性もあります。

では、どんなことが「侮辱」になるのでしょうか。また、「拘留」とか「科料」とかって何なのでしょうか。意外と知られていない気がします。

2 人の悪口を公表するのが侮辱罪

「侮辱」とは、粗くいいますと、「人の悪口を述べること」です。「馬鹿」「生きてる価値なし」「詐欺師」などと、言ったり、書いたりすることです。

 そういう悪口を、不特定の人、多数の人に伝わる形で表現した場合に侮辱罪に問われます。面と向かって本人に言った場合も、日常用語としては「侮辱」でしょうが、刑法の侮辱罪にはあたりません。友だちに言ったりLINEをしたりしたという場合も、やはり同様でしょう。侮辱罪にあたるのは、テレビや雑誌で述べる、ビラを蒔く、講演などで述べるといった場合です。最近ですと、多くの人の目につくネットへの書き込みがやはり最も問題になるでしょう。

関連する犯罪に名誉毀損罪があります。こちらは、もっと具体的に事実を指摘した場合に成立する犯罪です。例えば「詐欺師」というだけではなく、「◎◎は、△△市に嘘の書類を提出して、1億円の補助金を騙し取った」などとネットに書き込みますと、名誉毀損罪にあたることになります。名誉毀損罪のほうが刑は重く、最長で3年の懲役です。

3 ところで「科料」「拘留」って何?

「科料」は、いわば少額(1万円未満)の罰金です。

「拘留」は、刑務所などに30日以内の拘束をする刑罰です(裁判前や裁判中の身体拘束である「勾留」と音が同じですが、全く別の制度です)。執行猶予の制度がありませんので、最大30日間とはいっても実際に刑務所に入るわけであり、日常生活に影響があります。

ただ、この拘留という刑が実際に科されることは、極めて稀です。その結果、侮辱罪にあたる場合でも、これまでは、1万円に満たない額の科料を支払うという刑のみだったのです。

4 侮辱罪が重くなるとは

今回の改正で、1年以内の懲役・禁錮(なお、両者を合わせて拘禁刑というものになりました)
又は30万円以下の罰金も科されるようになりました。侮辱罪にあたる行為を1度行っただけで実刑となって刑務所で服役する、ということは少し考えにくいのですが、同様の行為を繰り返した場合や、他の事件で執行猶予中に侮辱罪にあたる行為を行ったような場合は、実刑判決となって刑務所で服役するといったことも考えられます。

また、時効の期間もこれまでの1年から3年に延びることになります。

5 侮辱罪で逮捕される可能性が大きくなる

実際問題としては、逮捕される可能性が大きくなるというのはかなり重要です。これまでは、住所不定といった場合以外は、侮辱罪で逮捕されることはほぼありませんでした。しかし、侮辱罪の刑に懲役などが加わったことで、逮捕される可能性も出て来ました。いったん逮捕されますと、起訴されるかどうかが決まるまでの3週間ほど、身体拘束がされることも多くあります。最終的に起訴されなくても、これだけの期間の身体拘束のダメージは大きなものがあります。

6 ネットで人を侮辱してはいけない

罪になるか、刑が重いかも重要ですが、最も重要なのは、やはり「人を侮辱しない」ということだと思います。何かを発信する場合には事実関係を把握したうえでおこなうこと(ネットなどでの他の情報を安易に信じないこと)、他人の人格を尊重して適切な言葉の選択を心がけることなどが必要です。今の時代、みんながSNSなどの、多くの人に自分の言葉を広げる手段を持っています。そこでの安易な言動は、侮辱罪や名誉毀損罪に問われる、損害賠償義務を負うなど、大きな責任を伴います。そのことを、十分に理解しておく必要があります。

7 「表現の自由」の不当な制約にならないように

ただ、侮辱罪の厳罰化は、危うさもはらんでいます。

例えば国の指導者が、周囲の国に対する領土侵害を始めたとしましょう。それに対して、「国際法違反だ」と主張した場合に、あるいはもっときつい「独裁者」「人殺し」という語を使って批判をした場合に、逮捕されたり、刑務所に入れられてしまったりする社会を想像してみてください。私たちは、そういう国の例を、まさに現在の世界で目にしてもいます。表現の自由、特に権力に対する自由な批判は、民主主義の根幹です。侮辱罪の厳罰化が、民主主義を妨げる手段にならないように、国民として見守っていくこともやはり重要です。

<回答者>大阪弁護士会 広報室

 

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