2022.05.25
貴社とBとの関係が良好なのか、面識が薄い先なのかにもよりますが、特にこのような大きな金額の場合には、Bとの話し合いを試みる一方、平行して弁護士にも相談することをお勧めします。順に説明します。
誤って振り込まれた金による預金部分についてBと甲銀行との間では預金は成立していない、という考え方もあったのですが、現在は、これもBの預金であると考えられています。
つまり、甲銀行は、原則として、Bの引き出しや他への送金を拒絶できないのです。公共料金などの引落も同様です。さらには、Bに税金の滞納でもあれば、税務署がこの1000万円を含めてこの預金を差し押さえることもあります。
ですから、あなたが甲銀行に、「Bが預金を引き出そうとしても拒否してください」と頼んでも、甲銀行は、「当行はBから預金を引き出したいと求められたら拒否できません」と断るでしょう。
誤って振り込んでしまった金銭を戻してもらう銀行の手続を、「組戻し」といいます。Bにお願いして、貴社が誤って振り込んでしまった1000万円を戻してもらうことになります。Bに了解して協力してもらう必要があります。甲銀行には、Aに振り込もうとしたこととか、どう間違えたのかとかを、詳しく説明する必要があります。
貴社がBと親しい場合、例えば取引がある場合なら、Bに連絡をして、謝罪をすれば、おそらく了解して返金してもらえるでしょう。しかし、知らない人ですと、了解してもらえない可能性も大きくなります。これ幸いと使われてしまうかもしれません。
面倒なのは、Bの連絡先がわからない場合です。個人の場合、Bの姓名だけからは住所や電話番号が掴めない場合も多いでしょう。甲銀行に頼めば、Bに、こういう誤振込があったようです、組戻しに協力なさいますか、と問い合わせてはくれます。しかし、それで了解が得られなければ、甲銀行は貴社にBの連絡先を教えてくれません。
この場合、この件を弁護士に委任をしたうえで、弁護士から甲銀行に対して、弁護士会を通じて問い合わせをするという方法があります。通常はこれで回答が得られます。
連絡先がわかれば、あなたの会社や依頼した弁護士からBに協力をお願いすることになります。ただし、甲銀行が把握している住所や電話番号では連絡がつかないこともあります。休眠口座などの場合です。Bが亡くなっている場合もあるでしょう。そういう場合は、法律的な手続が必要です。
Bに対して、誤振込をした金を返してくださいと、訴訟で請求することになります。こちらが間違えたのに訴えるなんて、と思うかも知れませんが、やむを得ません。
さらに、これをBに使われてしまうと裁判に勝っても1000万円を取り戻せそうもない、といった場合には、預金に対して、仮差押えをしておくほうがよいでしょう。仮差押えとは、お金の支払を請求する裁判の結論が出る前に、債務者の財産を処分できないようにしておく裁判所の手続です。相手方の反論を聞かずに、1000万円分を凍結できます。なお、1000万円の仮差押えの場合、150万円~200万円程度の保証金を一時的に法務局に供託する必要があります。また、これらの手続をするためにも、Bの住所を特定する必要があります。ご自身で行うことも不可能ではありませんが、弁護士に依頼することを強くお勧めします。
この1000万円の全額は返してもらえない場合があることには、少し注意が必要です。Bが、何らかの理由で、これは正しい振込なんだと考えた場合、誤振込だということを知るまでの間に、(大雑把にいえば)「無駄遣い」をしてしまった分は返す必要はなく、それを差し引いて残った額(「現存利益」といいます)だけを返せばよいのです。ギャンブルは「無駄遣い」の典型例です。
返さなくてよい分は、あくまでもBが誤振込と気付くまでに使った分です。気付いた後に使った分には返還義務があります。その意味で、なるべく早くBに、「間違って振り込んでしまった」と伝える必要があります。
Bがこの1000万円を使ってしまった場合の刑事責任の話を少しだけします。Bが、誤振込と知ったうえで、そうとは知らない甲銀行の窓口でこの1000万円を現金で引き出した、という場合、Bに詐欺罪が成立するという最高裁の判決があります。ただし、銀行が知っている場合、ATMで現金を引き出した場合、別の口座に移した場合などで違いがありますので、一律にいうことはできません。Bに、誤振込であることを伝え、使ってしまうと刑事責任に問われる可能性がありますよ、と伝えることは、Bの軽率な行為を防ぐためには有効ですが、犯罪の点の伝え方には少し注意が必要です。
<回答者>大阪弁護士会 広報室
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