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これってワクチンハラスメント?

2021.11.17

私の職場ではワクチン接種が進んでいます。私は体質的に問題ないのですが、ワクチンに抵抗があり打ちたくありません。上司からは、ワクチンを打たないとプロジェクトチームの中心に置くことはできず、営業には出さない、企画のメンバーから外す等と言われています。これって巷でよく聞く「ワクチンハラスメント」ではないのですか。

1 ワクチンの接種は労働者個人の自由な判断に委ねられています

 新型コロナウイルス感染拡大の収束の兆しが見えない中、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種が進んでおり、令和3年10月6日時点では、日本の全人口の62.3%が2回目の接種を終えています。
 もっとも、ワクチン接種は、健康体の人が体内に異物を取り込むことで疾病予防・軽減を図る手段であることから強制ではありません。法的にも、ワクチン接種が副作用を伴う医療行為であることからすれば、ワクチン接種を受けるか否かの判断は憲法が保障する自己決定権として尊重される事項ですし、接種を受けることは「努力義務」(予防接種法第6条1項、9条)で、あくまでも個人の同意がある場合に限り行われます。
 そのため、職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いをしたりすることは許されません。会社も、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行う必要があります(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)問1-10」)。

2 会社もワクチン接種の推進で労働者の安全を確保する必要がある

 他方で、会社側には、職場における感染防止対策の観点からも、ワクチン接種を促進して、労働者の安全を確保し、事業運営を行っていく必要があることも理解できます。
 実際、職域接種が本格的に開始され、また職域接種が実施できない企業においてもワクチン接種を推進する企業が多いのも事実です。ワクチン接種の推奨は、あくまで任意での接種を促すものにとどまり、「事実上の強制の契機」にならない限りであれば、認められる場合もあるでしょう。

3 ワクチンハラスメントとは

 近年、さまざまな行為について〇〇ハラスメントと呼ばれるようになり、ワクチンハラスメントもその一つですが、法的な定義ではありません。
 パワハラやセクハラ等の法律上定義されているハラスメントも含め、労使間で問題となるハラスメントとは、基本的に、安全配慮義務違反や不法行為というものと整理されます。ワクチンハラスメントについても、解雇や退職勧奨、同調圧力や悪口など様々な類型がありますので、法律上、違法なものと評価されるかは、その行為態様を個別に検討する必要があるでしょう。

4 ワクチン接種の有無で異なる取扱いをすることには慎重な検討が必要

 前置きが長くなりましたが、質問のケースは、違法なワクチンハラスメントに該当する可能性があります(後述のとおり私見に留まることにご留意ください。)。
 一般に、個別契約または就業規則等において業務上の都合により労働者に転勤や配置転換を命ずることのできる旨の定めがある場合には、企業は労働者の同意なく配置転換を命じることができます。質問のケースにおいても、(職種限定契約でない限り)どの部署で、どのような仕事をさせるかについては、会社側に人事権の行使として自由な裁量が認められます。どのような人材をどのような部署に配置すれば企業利益が最大化できるかを追求するのは正に会社経営の根幹の一つだからです。
 ただし、その場合も、配置転換などの人事権の行使が、不当な動機・目的がある場合や、配置転換の業務上の必要性がその命令がもたらす労働者の不利益と比較衡量した(比べた)結果として小さい場合には、配置転換命令が権利濫用に当たると判断されることもあります。厚生労働者作成の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」においても、「新型コロナウイルスの感染防止のために配置転換を実施するにあたっては、その目的、業務上の必要性、労働者への不利益の程度に加え、配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かについて慎重な検討を行うとともに、配置転換について労働者の理解を深めることに努めてください。」と記載されているところです。
 質問のケースは、個々の具体的な事情にもよるでしょうが、基本的には「プロジェクトチームの中心に置かない」「営業には出さない」「企画のメンバーから外される」ことは、労働者に対しワクチンの非接種に対する具体的な不利益を課すものとして、ワクチン接種を強制する事実上の契機となり、労働者の自己決定権を侵害することから、その不利益の程度は大きいといえるでしょう。一方で、業務上の必要性や相当性については、職場における感染防止対策や安定的な事業運営を行う必要性は理解できるものの、職場で現にクラスターが生じているなど労働者の安全確保や事業運営に具体的な支障が生じている等の危機的状況がなければ、基本的な感染対策や、抗原検査・PCR検査等での補完的な対応が可能である状況からすると、相当性に欠け、権利濫用と判断される可能性があることは否めないでしょう。
 そもそも、労働者のワクチン接種の有無に関する情報は、プライバシー権が妥当する秘匿性の高い情報です。会社も個人情報保護法に規定される要配慮個人情報に類するものとして、慎重に管理しなければなりません。そのため、仮に、会社がワクチン接種の有無に関する個人情報を取得しても、その個人情報は「従業員の健康管理」等の利用目的からの制約が存在することになりますので、配置転換をはじめとする人事権の行使のための情報として利用できるかは、取得の利用目的や相当性から慎重に検討しなければなりません。
 以上からすると、質問のケースは違法なワクチンハラスメントに該当する可能性があります。

5 労使間の話し合いで解決することが望ましい事項です

 繰り返しますが、職場や周りの方などへのワクチン接種の強制や、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いは決して許されません。
 その一方で、会社としてもワクチン接種の推進により労働者の安全を確保し、安定的な事業運営を行う必要性があるのも事実です。
 このようなワクチンハラスメントをめぐる法的問題については、ワクチン接種があくまでも個人の自由の判断のもとに行われること(自己決定権は尊重されなければならないこと)、ワクチン接種を行わない労働者に対する不利益な取扱いは許容されないことを原則として、業務上の必要性や相当性から、会社がどこまでワクチン接種を推奨することができるか、従業員間の異なる取扱いを行うことができるか等を、安全配慮義務、個人情報の取扱い、福利厚生の在り方等の様々な側面から考えていかなければならない複雑な問題といえます。
 議論が始まったばかりの問題であり、十分に議論がなされておらず、労使双方からそれぞれの意見が出され、定説もない状況です(そのため、本稿における見解はあくまでも私見であることにご留意ください。)。
 各企業も試行錯誤しながら検討を進めているのが現状ですので、ワクチンハラスメントをはじめとするコロナウイルスに関する問題が生じたときは、まずは労使間の話し合いで解決することが望ましいといえます。
 大阪弁護士会の新型コロナウイルスに関する法律相談は,労働問題に限らず,これと関連する色々な相談に対応するために拡充中です。まずはお電話をしてみてください。
<回答者>
石田 慎也 弁護士(大阪弁護士会 労働問題特別委員会 )

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