2021.08.25
お読みになった記事は,日本学生支援機構(旧日本育英会)からの奨学金についての保証人についての記事だと思います。今年(2021年)5月13日の札幌地方裁判所の判決が,新聞などで報道されました。
この奨学金には2人の保証人がついていました。1人は,奨学生の父親だったようで,「連帯保証人」でした。一方,もう1人は,「連帯」ではない保証人でした。「普通保証人」などということがありますので,この呼び方をしていきましょう。
例えば300万円の借入の保証人が例えば3人いる場合,その保証人が普通保証人であれば,自分は3で割った100万円だけ,つまり「頭割り」で支払えばよいわけです。馴染みがない言葉でしょうが,「分別の利益(ぶんべつのりえき)」といいます。一方,連帯保証人は,300万円を支払わなければなりません。
この裁判の事案では,奨学生が返済をしなくなったため,普通保証人だった人が,日本学生支援機構の請求に応じて,その時点で残っていた残額全部の支払をしました。しかし,ほかにも父親が保証人(連帯保証人)だったわけですから,普通保証人としては半額の支払でよかったはずです。払いすぎの半額を返せとして裁判を起こしたのです。日本学生支援機構は返す義務はないと争いましたが,札幌地方裁判所は,普通保証人のこの請求を認め,日本学生支援機構に,半額を返せという判決をしました。
日本学生支援機構の裁判などでの言い分は,自分は半額だけ支払えばよいのだと支払を拒絶されれば半額を超えての支払は求めないけれども,そのような拒絶をせずに全額支払った場合に返す必要まではない,というものでした。しかし,裁判所は日本学生支援機構のこの主張を認めませんでした。
地方裁判所の判決ですが,この判断は正しいだろうと専門家の見解も多く報道されています。
奨学金の場合に限らず,保証全般について,連帯保証人と普通保証人の2種類があります。そして,連帯保証人か普通保証人なのかは,保証人になる際の契約書に,「連帯して」という語があるかどうかで決まります。「借主と連帯して保証する」とか,「連帯保証人」という語があれば連帯保証人ですから,「頭割り」を主張できません。しかし,保証をする際の契約書の中にその言葉がなく,単に「保証する」としか書かれていない場合は,普通保証人ですから,「頭割り」を主張できます。手元に保証する際の契約書やそのコピーがない場合は,債権者(請求して来ている人)に,コピーを送るよう,求めましょう。
普通保証人の責任が軽いという点はいくつかありますが,この「頭割り」が一番大きな違いでしょう。
もっとも,金融機関からの借入といった場合の保証は,ほとんど例外なく,連帯保証です。普通保証の例は,まずないでしょう。実際に使われる例としては,連帯保証の例のほうが圧倒的に多数といってよいと思います。文具店で売っているものや,ネットで引っ張ってきた書式も,ほぼ間違いなく,普通保証人ではなく連帯保証人になっているでしょう。ただ,手書きで保証契約書を作った場合などには,連帯という語が入っていないこともあります。また,日本学生支援機構(旧日本育英会)の保証の場合,1名は連帯保証人,もう1名は普通保証人とされていました。相談者の方も,ぜひ確認をしてください。
他人の借入の保証をしたために財産を失った,破産をした,という悲劇は,昔からよく聞きます。人の保証人になるべきではないというのは,今も昔も変わりません。
2020年4月から施行された新しい民法は,そのような事態がなるべく起こらないようにするために,保証契約成立の要件をかなり厳しくしました。債権者(金融機関の側)の側からしますと, 特に事業のための貸付について,保証人になってもらうため,あるいはなってもらった保証人に請求できるためのハードルがあがっていることになります。。つまり,保証人になってしまい,その後に支払えと請求されても,拒否できたり,減額を求めたりできる場合が増えたことになります。
お金を借りた人のために保証人になってしまったことで支払を迫られているといった場合には,弁護士に相談されることをお勧めします。
<回答者>
大阪弁護士会 広報室
※ご相談は各地域の法律相談センターへ直接お問い合わせください。