2021.06.28
企業の採用担当者が就活生に対するセクハラを行ったという事件が最近も話題になりましたが、同様の事案は、これまでもしばしば起きていました。雇用主と労働者といった明確な力関係はないものの、就活生からすれば、希望する就職先の担当者ともなれば自分の採否に影響があると考えて、断りたくても断れないという状況は起こり得えます。
最近公表された「職場のハラスメントに関する実態調査について」(厚生労働省令和2年度調査)によると、就活又はインターンシップ参加中にセクハラ被害を一度以上受けたと回答した者の割合が、実に約4人に1人(25.5%)に及びます。男性が26.0%、女性が25.1%と、男女問わずセクハラ被害が起きることが示されています。
では、そもそも、そのような本来就職活動と関係がない食事を断ったことを、採用において不利に扱ってよいのでしょうか。
就職活動とは関係のない食事の誘いを断ったことを、採用において不利に扱うことは許されません。企業の採用活動や就活生との接し方について、特定の法規制などがあるわけではありませんが、これまでに採用担当者が就活生に対してセクハラに及んだ事件が発生していたことを踏まえ、企業によっては、個人携帯のメールやLINE等の使用を禁じたり、特定の学生と勤務外で会うことを禁止していたりもします。今回問題になった企業でも、同様のルールを設けていたようです。
セクハラ行為は、それ自体、刑法上の強制わいせつ罪や強制性交罪などで処罰対象となる場合がありますし、民事上も損害賠償責任が生じるものです。
そのような事態にまでは至っていないとしても、自己防衛的に食事などへの誘いを断った行為が、採用上不利に扱われることは許されません。その結論自体には異論がないといってよいでしょう。
他方で、企業側がいかなる者を雇い入れるかについては、原則として自由にこれを決定することができるとするのが最高裁の立場です(三菱樹脂本採用拒否事件・最高裁大法廷判決昭和48年12月12日)。この事案は、企業側が在学中の団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることの違法性が争われた事案ですが、最高裁は、以下のように述べて、その適法性を認めています。
「ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」
質問の事例は上記最高裁の事例とは内容が大きく異なりますが、一般的に企業には採用の自由が広く認められていますので、企業側が採用の自由を根拠に不採用にするリスクは大いにあり得ます。
しかしながら、実務上は、不採用の理由までは就活生には通知されないことが通常です。そのため、不採用になった就活生としては、食事の誘いを断ったことという本来考慮されるべきではないことまでも考慮されているのではないかと不安に思ってしまうこともあるでしょう。とはいえ、結果的に不採用となった場合としても、食事の誘いを断ったことが考慮されていることを立証できることはまれですから、そのような証拠もなく企業に損害賠償料請求などをすることは現実的ではありません。
そのことが、セクハラ等の被害に遭っても声をあげにくい状況を作っていると思われます。前述の厚生労働省の調査でも、就活等セクハラを受けた後の行動として、「何もしなかった」と回答した者の割合が一番多く、24.7%となっています。その一番の理由が、「何をしても解決にならないと思ったから」(47.6%)であり、「就職活動において不利益が生じると思ったから」との回答も三番目に高い割合を占めています(17.5%)。
他方で、就活生への接し方は社会的にも注目を集めるようになってきています。被害者が相談した後の相談先対応者の対応としても、「企業として事態の解決に向けて動いてくれた」との回答が三番目に高い割合となっています(33.5%)。このような状況も踏まえつつ、企業側の別の採用担当者や人事部に申入れをすることも手段として検討すべきでしょう。
そうはいっても実際には自分一人で立ち向かうことは困難なことが多いと思われます。そのような場合、弁護士に依頼をして本人名を秘匿しつつ申し入れること等も可能です。被害を受けたり、被害に遭いそうになったりした場合には、抱え込まずに弁護士に相談してください。
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