2021.01.19
老後も安心したい、そのために心配事をひとつずつ片付けて行きたいと考えるときに、信託という方法もあります。「信じて託す」です。
信託とは、「委託者」という人が,自分持っている財産を「受託者」という人に託して,管理・運用してもらい,その財産から「受益者」に対して財産を毎月、また必要な都度に支払ってもらうといった制度です。
例えば、Aさん(委託者)がお孫さん(受益者)にお金を渡したいけれど、お孫さんはまだ未成年であるため今すぐに渡すわけにいかないといった場合があります。この場合に、信頼できる友人のB さん(受託者)にお金を託して ,お孫さんが未成年のうちは生活のためのお金を毎月少しずつお孫さんに給付してもらい,お孫さんが成人したら残った財産をお孫さんに渡してもらう。そういうことができる制度です。
最近は、身近なご親族で信頼できる人がいれば、その人を受託者として財産を託して、老後の認知症対策をしたり、お孫さんに給付したりする信託を利用する事例が増えています。そういう信託のプランを弁護士が考えていきます。
そういうイメージを持つ方も多いと思います。しかし,信託が生まれた国であるイギリスやアメリカでは、一般の人たちが老後の備えや家族への財産の承継のために信託を多く利用しています。
日本では、かつては,財産を他人に託して預けることから、管理を任せることができる人に限定するべきという考えに基づいて、法律が受託者を信託銀行に限定していました。しかし、平成18年の法律改正で,広く信託を使ってもらうために、信託銀行以外の人でも受託者になれるようになっています。
ただ、制度が新しくなってから10年以上が経過していても、まだまだ、信託というシステムは一般の方には身近に感じられてないのではないかと思います。具体的にはどういう場合に使えるか、みてみましょう。
認知症になってしまったら、自分のお金をどうしたらいいか判断ができなくなります。
もし事前に特に準備していなければ、成年後見制度を利用することになると思います。事前に準備をして任意後見という制度を使うこともできるでしょう。しかし、後件では認知症になった方の生活の維持や財産の保全や管理が優先になり、認知症になる前からの希望は実現しにくいのです。たとえば、毎年お孫さんにお金をあげていた高齢者の方がいるとしましょう。その方がひどい認知症になってしまい、成年後見制度が使われることになった場合、成年後見人がこれを続けるのはちょっと難しいのです。認知症になった後もそれを続けたい場合、早いうちに「信託契約」というものを締結して、その中にお孫さんへのお金のことを盛り込むことで、それが可能になってくるのです。
誰しも自分のお金を自分の思うように使いたいと考えると思います。それは、多くの場合、自分が認知症になった後も、生きている限り,さらには亡くなった後も続くお気持ちだと思います。そういうお気持ちを実現する方法として信託が有効です。
高齢になると、お金を騙しとられてしまい老後が立ち行かなくなることが心配になることもあるかと思います。
信託では、認知症になる前から契約して認知症になる前でもお金を託す人に管理してもらえますから,高齢者を狙う消費者被害のような悪質事案に対しても、資産は保全できます。
お子さんに障がいがあり、自分の他界後に,お子さんがどうやって収入を得て生計を立てていくんだろう。そこがとても心配だとおっしゃる方がいらっしゃいます。そのような親御さんには、早くからちゃんと貯蓄され,お子さんのために財産を用意されている方も多いようです。その財産を誰かがしっかり管理して、必要なお金が毎月、または必要な都度,そのお子さんに渡ることを希望されると思います。親御さんが亡くなればお子さんは相続するでしょうから、蓄えた財産の全部や大部分を、そのお子さんに渡すことができるでしょう。ただ,相続は、財産をまとめてお子さんに渡してしまう制度です。その後、障がいをお持ちのお子さんがちゃんと管理できるのか,例えば消費者被害を受けて騙し取られてしまわないかなどの心配が残ってしまうことになります。
それに対して、信託の場合は、信頼できる人に財産を託して,ちゃんと管理してもらい、お子さんに毎月必要なお金を支払ってもらうことが考えられます。障がいをお持ちのお子さんのご家庭には信託が有効です。
遺言も、亡くなった後の財産の使い方を決める有効な一つの方法です。ただ,遺言は一世代に限りに分配する制度です。例えば、自分が亡くなったら、所有する自宅にはまず配偶者に住んでもらい,配偶者の死後はお孫さんに渡したい,というようなご希望のある場合は、遺言では対応できません。これに対して、信託であれば、2次相続・3次相続といわれるところまであらかじめ決めることができます。
後々のことまで、それこそ最後の1円まで自分の思いをちゃんと込めて託すことができるのが信託です。
信託のいいところは,自分の生前中の認知症対策も、亡くなった後の家族への資産の承継も一つの契約で一緒にできるところです。信託の契約で、色んな自分の思いを入れ込むことができるのです。
現在の民事信託の実務では、信頼できる親族を受託者とするケースが多くなっています。信託銀行に受託者を依頼することも考えられますが、財産が金銭に限られることや、受託者報酬がかかることから、利用できる事案が限られます。
弁護士等の専門職が受託者になることについては、信託業法の規制の関係で、許されるとする見解と許されないとする見解の両方があるため、今のところお勧めはしていません。
信頼できる親族がいない場合も含め、事案に応じた適切な受託者の選択についても、弁護士が提案できます。
自分が将来認知症になった場合のことや死亡した後の相続のこと等については、まだまだ自分の問題ではないとか,まだ大丈夫とか、まだ健康なのに嫌だとか、そういう気持ちの方が多いと思います。
むしろ、そういう方こそ,自分のこととして将来のプランニングを考えていただきたいところです。認知症への対応は、判断能力に問題が生じてギリギリになって慌てて行うと、思ったようにいかないことも想定されます。もっと早くから自分のこととして考えていただくほうがよい結果になります
老後の色々な心配ごとを解決する制度には、色々なものがあります。成年後見・任意後見契約がありますし、財産を引き継ぐ方法としては遺言を作成する方法もあります。
そうした選択の中に信託のことも入れていただきたいのです。信託を知っていたら有効に解決できたのに、知らなかったから上手くいかなかったというのは、もったいないと思います。
私たち(大阪弁護士会の司法委員会信託法部会)は、信託を選択したらこんなこともできますというのをお伝えしたいと思っています。信託を選択肢の一つとしつつ、様々な選択肢の中から事案に応じて最適な方法をご提案できると自負していますので、是非,信託に詳しい弁護士にご相談ください。
<回答者>
林 邦彦 弁護士(大阪弁護士会 司法委員会)
大阪弁護士会 「信託相談窓口」
「信託相談窓口」とは、弁護士が、信託を通じた財産管理や財産承継の手続きや疑問点などについて、相談を承る窓口です。まずは、こちらにお電話を。
詳しくは、大阪弁護士会HPの信託相談ページへ。
※ご相談は各地域の法律相談センターへ直接お問い合わせください。