2020.12.11
新型コロナウイルス感染症の発生が報じられて以降、患者・濃厚接触者、医療従事者、本邦外出身者に対する誤解や偏見に基づく差別的取扱いや言動の事例が報告されています。職場における例をみてみると、上司から除菌スプレーをかけられた、「ばい菌来るな」と言われた、電車通勤の同僚を食事に誘わない、咳をしたら謝罪を要求された等の事例が報告されているところです。
明確な定義があるわけではないですが、このような新型コロナウイルスを理由するハラスメントは「コロナハラスメント」と呼ばれています。
今般、労働施策総合推進法の改正により、職場におけるパワーハラスメントが「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就労環境が害されること」(労働施策総合推進法第30条の2参照)と定義付けされました。また併せて厚生労働省によりパワハラ指針(令和2年1月15日付け事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)が告示され、パワハラの代表的な言動を身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6類型に整理し、その類型ごとにパワハラに該当する例、しない例が提示されました。
コロナハラスメントについても、厚生労働省作成の新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)によれば、「例えば、過去に新型コロナウイルスに感染したことを理由として、人格を否定するような言動を行うこと、一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし職場で孤立させること等は、職場におけるパワーハラスメントに該当する場合がある」とされています。
これによれば、新型コロナウイルスの罹患から復職後、一人だけ別室に隔離するようなことは、業務上の必要性かつ相当性が認められない限り違法なパワーハラスメントに該当する可能性があります。
この労働施策総合推進法の改正により、事業主にはパワーハラスメントがないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています(ただし、中小事業主の義務化は2022年4月1日から)。
そのため、ご質問のようなケースでは、まずは会社に対して適切な相談対応等を求めるのが良いでしょう。
質問とは離れますが、コロナハラスメントがマタニティハラスメントに該当する場合もあります。
新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中、働く妊婦の方は、職場の作業内容等によって、新型コロナウイルスへの感染について不安やストレスを抱える場合があります。このような不安に応えて、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置を新たに規定しました。これにより、妊娠中の女性労働者が、保健指導・健康検査を受けた結果、その作業等における新型コロナウイルス感染症への感染の恐れに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、主治医や助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主は、この指導に基づいて、例えば感染のおそれが低い作業への転換や在宅勤務・休業等の出勤の制限等の必要な措置を講じなければなりません。
しかしながら、会社には休みたいと言い出しにくい雰囲気があり、この制度を利用すること自体ハードルが高いという意見も寄せられているところです。会社側が妊婦の申し出に関わらず、制度利用を阻害したり、不利益な取り扱いをしたりすれば、当然ながらマタニティハラスメントとして違法な取り扱いに該当するものと考えられます。
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<回答者>
石田 慎也 弁護士(大阪弁護士会 労働特別委員会)
相談内容:労働問題、経営問題、貧困問題、家庭問題、消費者問題、学校の問題、差別の問題等、新型コロナウイルスに関する法律問題全般
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