2020.05.21
未払賃金立替払制度は、企業が倒産し、賃金未払のまま退職することになった労働者に対して、国が事業主(その倒産した企業)に代わって未払賃金の一部を立替払いする制度です。
「賃金の支払の確保等に関する法律」7条に基づき、事業主が全額負担する労災保険料を原資として、独立行政法人労働者健康安全機構(以下「機構」といいます。)が実施しており、全国の労働基準監督署(以下「労基署」といいます。)が相談窓口となっています。
企業倒産時のセーフティネットの一つとして機能しています。以前から利用されている制度で、企業が新型コロナウイルス感染症の影響で倒産した場合にももちろん利用できます。
対象となる事業主(使用者)については、次の2つの要件があります。
⓵ 労災保険の適用事業の事業主で、かつ、1年以上事業を実施していること
⓶ 倒産したこと
ここで「倒産」には、2つのパターンがあります。
イ 法律上の倒産
裁判所において、破産、民事再生、会社更生、特別清算の各手続開始決定を受けた場合です。
ロ 事実上の倒産
中小企業事業主の場合、法律上の倒産とならなくとも、事実上の倒産(事業活動停止、再開見込みなし、賃金支払能力なしと労基署長が認定した場合)も対象となります。
労働基準法における「労働者」に該当すること(この点は後述の7(3)もお読みください)を前提に、次の3つの要件があります。
⓵ 破産手続開始等の申立日又は事実上の倒産の認定申請日(後述の7(1)を参照してください)の6か月前の日から2年間に退職したこと
⓶未払賃金額等について、法律上の倒産の場合は破産管財人等が証明し、事実上の倒産の場合は労基署長が確認したこと
⓷破産手続開始決定等又は事実上の倒産の認定の日の翌日から2年以内に立替払請求をしたこと
労働者の退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金(給料)と退職手当(退職金)のうち未払いとなっているものが対象となります(なお、総額2万円未満のときは対象外)。
また、定期賃金ではないボーナス(賞与)は含まれず、解雇予告手当も含まれません。
未払賃金総額の8割で、退職日における年齢による上限額もあります。
立替払金は、請求者である労働者が指定する本人口座に送金され、税務上退職手当扱いとなり、退職所得控除を受けられます。
労働者から返金する必要はありません。立替払いされると、機構がその賃金債権に代わって事業主や破産管財人等に請求(求償)します。労働者に対する立替払いであって、事業主に対する補助金ではありません。
(1)「法律上の倒産」か「事実上の倒産」か
未払賃金の立替払いを受けるために、労働者側で気を付けておくべきは、倒産した事業主が「法律上の倒産」(その中で最も多いのは破産)の申立てを裁判所に行ったか、それとも「事実上の倒産」にとどまるのか、にあります(前記2⓶の事業主の「倒産」要件と共に3⓵の対象労働者の期間制限にも関係します。)。立替払請求を行うのは労働者ですが、その際、未払賃金額等につき、破産管財人の証明書または労基署長の確認通知書を添付する必要があるのです(前記3⓶の要件)。
破産の場合、⓵事業主が裁判所に対し破産申立て→⓶裁判所が破産手続開始決定と破産管財人選任→⓷破産管財人による未払賃金額等の証明(証明書の発行)→⓸労働者が機構に立替払請求の流れになりますので、基本的に破産管財人とのやり取りとなります。この場合は、破産申立ての際の申立代理人の弁護士または破産管財人に問い合わせることになります。
他方、事実上の倒産の場合、裁判所や破産管財人の関与がありませんので、⓵労働者が労基署長に対し事実上の倒産の認定申請→⓶労基署長が事実上の倒産の認定→⓷労基署長による未払賃金額等の確認(確認通知書の発行)→⓸労働者が機構に立替払請求という流れになり、労基署とのやり取りとなります。この場合、労働者側から事実上の倒産の認定申請を行う必要がありますので、労基署に問い合わせることになります。
(2)資料を残しておきましょう
法律上の倒産と事実上の倒産のいずれの場合も未払の給料や退職金がいくらあるのかの確認が大切な作業となりますので、労働者側でわかる情報や資料を提供できるよう用意しておくとよいでしょう。
(3)役員は? 外注は?
取締役(役員)や代表者の親族、建設業手間請け従事者らの場合は、未払賃金立替払制度の対象となる「労働者」に該当するのかが問題になります。このような労働者性に疑義がある場合は、慎重な確認がなされることになります。
・独立行政法人労働者健康安全機構のウェブサイト「未払賃金の立替払事業」
https://www.johas.go.jp/tabid/417/Default.aspx
・吉田清弘=野村剛司『未払賃金立替払制度実務ハンドブック』(金融財政事情研究会、2013年)
自分で調べたけれどよくわからない、という場合は、知り合いの弁護士、または大阪弁護士会の総合法律相談センターに相談してみてください。
<回答者>
大阪弁護士会 野村 剛司 弁護士
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