労働(経営者側)

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労働(経営者側) に関するQ&A

懲戒解雇

私は、会社を経営していますが、今日、管理職会議があり、社員の一人が飲酒運転で人身事故を起こし逮捕され、現在、警察で取り調べを受けているとの報告がありました。
その社員は、勤務時間外に、友達の家に遊びに行った帰りに事故を起こしたそうで、その時に乗っていた車も個人所有の車で会社の責任という面では問題がないようなのですが、会議の中では、懲戒解雇にするべきだという意見が多数を占めました。
というのは、私たちの会社では、多くの社員が仕事で会社の車を使用していることから、飲酒運転で人身事故を起こすような社員を、このまま雇用し続けることは会社の信用に関わるからです。
就業規則には、懲戒事由として「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」や「犯罪行為を犯したとき」が挙げられています。私自身、これからの会社のことを考えれば、懲戒解雇も致し方がないと考えているところです。
このまま、この社員を懲戒解雇にして問題はないでしょうか。
  1. 懲戒権は、企業が本来的に有する企業秩序維持権の1つですが、懲戒解雇を含め懲戒処分を行うには、就業規則にその旨の規定があり(懲戒の事由と手段が就業規則に明定され)、それが周知徹底されていることが前提となります。
  2. もっとも、就業規則にその旨の規定がありさえすれば、いかなる場合でも社員を懲戒解雇にできるわけではありません。
    ご質問の事案のような「私生活上の非行」に対する懲戒権の行使については、問題となった行為が「会社の社会的評価に重大な悪影響を及ぼすような」場合に限定されるからです。

    そして、会社の社会的評価に重大な悪影響を及ぼしたかどうかは、「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情」から総合的に判断されます。

  3. したがって、ご質問の事案においても、これらの諸事情から総合的に判断する必要があります。

    (1)まず、飲酒運転のうえ人身事故を起こしたということ(当該行為の性質、情状)が問題となります。
    交通事故の場合、その悪質性が問題になると考えられますが、飲酒運転は社会的にも問題となっていますように情状に関する重要な考慮要素となるでしょう。
    (2)「事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針」については、多くの社員が車を使用していること以外詳細は分りませんが、運送業や旅客業のような会社の社員による交通事故ということであれば(会社の事業の種類・態様)、重要な考慮要素になると思われます。
    また、会社との関係を含めて新聞報道されたといった事情や運送業や旅客業でなくても、交通安全に特に力を入れている、飲酒運転の追放について社会活動を行っている企業であるといった事情(経営方針)があれば、考慮要素の1つになるでしょう。
    (3)また、事故を起こした社員の「会社における地位・職種等」も問題となります。当該社員は単なる一般の従業員であったのか、それとも部下を持つなど指導的な立場であったのかなどが考慮されることになります。
    (4)さらに、就業規則の「懲戒事由」にあたるとしても、過去に社内で同様の事例があればその際の処分と均衡を失しないこと、諸般の事情から懲戒解雇が重過ぎないこと、本人の弁明の機会を与えたことなどの要件をクリアしないと懲戒権の濫用として無効となることがあります。

  4. 以上のように、私生活上の非行に対する懲戒権の行使については、非常に多くのことを考慮しなければならず、飲酒運転で人身事故を起こした者に対する懲戒解雇の有効性についても、その具体的事情の違いによって判断は分かれています。
    したがいまして、本件においても、懲戒解雇が妥当かを検討するためには、まだまだ多くの事情を聞く必要があるといえますので、大阪弁護士会の相談窓口などで専門家に相談されたうえで、慎重な対応を取られることをお勧めします。

雇止め

私の経営する製造業の会社では、リーマン・ショック以降、会社の業績が不振に陥りまして、当面回復の兆しも見えませんので、わずかばかりの内部留保を使い切る前に、人件費をカットするため、リストラによる人員整理をしたいと考えております。
従業員には、正社員と契約社員(期間工)がおります。契約社員については、契約期間や更新回数などは、契約社員によってまちまちです。これらの契約社員の全てについて、次回の契約更新時に、契約更新をしない(雇い止め)ということは可能でしょうか。
また、この際逆に、契約社員について雇い止めをするのではなく、契約社員より技術がおとり勤務態度にも問題もある特定の正社員を解雇することはできますか。
  1. 有期雇用契約の契約期間満了における雇止め(契約を更新しないこと)は、必ずしも企業が自由にできるわけではありません。
    有期雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にあった場合(東芝柳町工場事件-最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁)や、雇用継続に対する労働者の期待に合理性がある場合(日立メディコ事件-最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決・判例時報1221号134頁)には、雇止めにつき、客観的かつ合理的な雇止めの理由が必要となります。
    本件でも、契約社員が何度も契約を更新されていたり、契約更新の際に「次も必ず更新するから」と雇用継続を期待させるような言動があった場合には、雇止めが認められるためには、客観的かつ合理的な雇止め理由が必要とされる可能性が高くなります。
  2. 本件のような経営上の業績不振を理由とした雇止めに客観的かつ合理的な雇止め理由があるといえるでしょうか。
    まず、こちらのとおり、業績不振を理由とした解雇(整理解雇)の場合(期間の定めのない契約、つまり正社員の場合)には、通常の解雇に比べて、人員削減を行う必要性が本当にあったかなど、4つの要件(要素)を慎重に吟味する必要があります(詳しくはこちらをお読みください)。
    そして、この整理解雇の要件は、契約社員の雇止めの場合にも、正社員の場合に比べれば緩やかとは言えますが、一定の客観的かつ合理的な理由が必要となる場合があります。
  3. ご相談の事例の場合には、雇い止めをする対象の各契約社員の契約年数や更新回数、業務の性質(一時的な業務か、継続的にある業務か)更新を期待するような事情があったかどうかなどをまず検討した上で、さらに、あなたの会社の業績からして本当に全員の雇い止めをしなければならないほど人員整理の必要性があるのか、会社の内部留保がどの程度あるのかなど、雇い止めをする必要性等について、慎重に判断する必要があります。
    ぜひ行動を起こされる前に、弁護士に相談してください。
  4. また、人員整理を行う際に、契約社員を雇い止めするのではなく、正社員を先に解雇することができるかという点ですが、この場合には、先に述べました整理解雇の4つの要件の他に、その正社員を先に解雇することについて、合理的な理由が必要となります。この合理的理由が特にない場合には、正社員を先に解雇することはできません。このように正社員の解雇の場合には雇い止めの場合に比べてより慎重な判断が必要になります。弁護士に相談されることをおすすめします。

私傷病休職と解雇

私の会社の営業部に、先月うつ病になっているとわかった従業員がいます。本人は、半年前に心療内科に通院を始め、その頃、うつ病と診断されたようですが、会社には黙ったまま勤務していたようです。先月、直属の上司の様子がおかしいと思い、問い詰めたところ、本人がうつ病で通院していると打ち明けました。最近は、特に具合が悪いようで、出社しても仕事にならないようなのです。
うつ病のため、出社しても仕事にならない日が続いているという状態なので、しばらく休職をさせて病気が回復するのを待とうと考えています。
しかし、一定期間を過ぎても回復しなければ、解雇するのもやむをえないと考えています。

会社として、休職や解雇といった措置をとることはできるでしょうか。できるとしてどのようなことに気を付けたらよいでしょうか。

  1. 私傷病休職とは、業務外の傷病による休職のことです。
    会社が私傷病休職を命ずるには、原則として、就業規則にその旨を定めておく必要があります。就業規則を確認してください。
    私傷病休職を命ずることができる規定がある場合には、どのような条件で休職命令ができる規定であるかも確認してください。
  2. 私傷病休職期間中に傷病から回復し就労可能となれば休職は終了し、復職となります。これに対し、回復せず私傷病休職期間満了となった場合については、就業規則でどのように定めているかによって決まります。回復せず私傷病休職期間満了となれば、「解雇する」と定める場合と、「自然に退職する」「自動退職」と定める場合とがあります。
    解雇するという場合、従業員に対して解雇通知をするだけではなく、法律に定められている解雇を制限するルールに従う必要があります(参照)。
    「自然に退職する」「自動退職」と定めている場合にも、会社から従業員に雇用契約が終了した旨を通知しておくべきです。
  3. 復職を認めるか否かについては、「治癒」したといえるかどうかの判断にかかってきます。「治癒」したといえるためには、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復していることが必要です。
    しかし、当初は軽易業務に就かせればほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶりである場合には、使用者がそのような配慮を行うことを義務づけられる場合もあるとした判決があります(東京地裁昭和59年1月27日判決、大阪地裁平成11年10月18日判決、大阪地裁平成20年1月25日判決参照)。
    また、職種や業務内容を限定せずに雇用契約をしている場合には、休職前の業務ができなくても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その従業員の配置や移動の実情、難易等を考慮して、現実に配置可能な業務があればその業務に復帰させるべきだとした判決もあります(最高裁平成10年4月9日判決参照)。
  4. 以上から、裁判所の判断もはっきりしているとは言い難い状況であり、従業員に休職を命ずるか否か、復職させるか否かの判断は慎重にした方がよいと考えられます。また、私傷病休職期間満了を理由に従業員をやめさせるという対応をとる場合は、弁護士にご相談ください。
    なお、以上はうつ病が業務以外の原因で発症した場合(私傷病の場合)を念頭において回答しております。

セクハラ(防止策)

(経営者側)事業主が講じるべきセクハラ防止策
私は、中小企業の管理職です。社内の女性社員から、セクハラの相談を受けました。
内容としては、同じ部署の男性上司から食事やデートの誘いを受け、何度かこれを断っていたところ、関係が悪化し、その後、その女性社員が取引先の支店長と不倫関係にあるとか、取引先の複数の男性と交際しているなどと、男女関係にまつわる根も葉もない噂を、社内や取引先に流されるようになったとのことです。そのため、女性社員は、職場環境が悪化して、仕事に支障を来し働きににくくなったとして、会社にその男性上司の言動を止めさせて欲しいと言っています。
このようなケースでも、会社として対応しなければいけないのでしょうか。

事業主は、職場におけるセクハラを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務があります(雇用機会均等法第11条)。そして、必要な措置の具体的な内容は、厚生労働省の定めるいわゆるセクハラ指針に定められています(平成18年厚生労働省告示第615号)。
セクハラ指針は、職場におけるセクハラ(セクシュアル・ハラスメント)につき、職場における性的な言動(性的関係の強要、腰、胸等に触る、等)に対する労働者の対応により当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受ける「対価型セクハラ」と、職場における性的な言動(当該労働者に関する性的な情報の流布、ヌードポスターの掲示、等)により労働者の就業環境が害される(苦痛、就業意欲の低下、仕事が手につかない、等)「環境型セクハラ」の2つに分類しています。

そして、事業主が採るべき措置義務の内容として、【1】就業規則への記載、各種広報・啓発資料等の配布、研修・講習等の実施によりセクハラに関する事業主の方針を明確化し、その周知・啓発をはかること、【2】相談・苦情のための窓口(担当者、手続き、等)を明確化し、それらに適切かつ柔軟に対応すること(人事部との連携、マニュアルの作成)、【3】職場におけるセクハラに係る相談の申出があった場合に、事案について事実関係を迅速・正確に確認し、雇用管理上(配置転換等)ないし就業規則上の措置をとるなど適正な対応をすること、【4】相談や事後対応におけるプライバシーの保護、相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱い禁止の周知・啓発、を定めています。
セクハラ指針に定める措置義務違反については、厚生労働大臣(都道府県労働局長)による行政指導や、企業名の公表制度の対象とされています。
さて、ご相談いただいた質問についてですが、女性社員の相談内容が事実であれば、男性上司の性的な言動により女性社員の就業環境が害されており、「環境型」セクハラの典型例に当たります。そこで、事業主としては、事案について事実関係を迅速・正確に確認した上で、雇用管理上(配置転換等)ないし就業規則上の措置をとるなど適正な対応をする義務があります(上記【3】)。

具体的には、相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認し、必要に応じて第三者からも聴取する等の措置を講じます。以上の調査の結果、職場におけるセクハラの事実が確認できた場合には、就業規則等にもとづき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じなければいけません。また、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者との間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講じる義務があります。さらに、再発防止に向けた措置なども義務付けられています。
職場におけるセクハラが発生した場合、行為者の責任が問われるのみならず、事業主の責任をも追及されることが一般的です。事業主が責任追及を免れるためには、セクハラ被害が生じてしまった場合の事後の対応にとどまらず、セクハラ被害の予防のため、普段から弁護士等の専門家へ相談し、セクハラ指針に則った職場環境の整備を行っておくことが重要です。

パワハラ(部下に対する指導)

(経営者側)部下に対する指導がパワハラに該当するかについての一般的基準
私は、会社でいわゆる管理職に就いている者です。
近年パワハラが社会問題化していることから、当社の管理職に就いている社員の間でも、部下に対する各人の指導がパワハラにあたるかどうかが話題に上ることがあり、部下に対して指導する際に過敏になっている者もおります。ただ、私個人としては、上司が部下にある程度の業務上の指導をすることは、当然許されて然るべきものと考えています。
そこで、いったいどの程度までの指導なら許され、どの程度からパワハラにあたるのかを教えて下さい。また、そもそも、パワハラにあたるかどうかについて、何らかの判断基準はありますか?

「パワハラ」とは、「パワーハラスメント」の略語であり、法令上にその定義はありませんが、一般的に「職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範囲を超えて、継続的に人権と尊厳を侵害する言動を行い、就業者の働く環境を悪化させ、あるいは雇用不安を与えること」といわれています。そして、違法なパワハラと正当な業務命令を区別する基準については、「社会通念上許容される限度を逸脱し、相手方の人格権を侵害する違法性を有する行為といえるか否か」により判断されることとされています。ところが、現実には、部下への指導がパワハラに該当するかどうかは、会社の業務内容、個人の資質・性格等とも大きく関わるところであり、その判断は決して容易ではありません。
パワハラへの該当性については、上司による部下への指導の態様、程度、目的、注意・指導の場所・時刻等に照らして判断されます。部下への指導がパワハラにあたり、会社あるいは上司である従業員が損害賠償責任を負う場合について、過去の裁判例を参考とすれば、以下のような場面が考えられます。

まず、部下への叱責が、業務と関連性がない、単なる私的目的に基づくものである場合、これにより部下が精神疾患を患うなどの損害を負ったときには、その上司の行為は不法行為に該当し、損害賠償責任を負うものと考えられています。
次に、仕事に関する叱責目的であっても、その手段が不相当な場合が挙げられます。一般に、ミスを犯した部下に注意をすることは、それが真に業務改善を目的とするものであれば、社会通念に反しない限り一定程度は許されるものと考えられています。しかし、部下を管理監督する立場にあるものは、部下への指導にあたり、その人格権を侵害しないようにする注意義務を負うものとされています。部下の犯したミスの程度も考慮しつつ、部下への注意・叱責の度合いが社会通念に照らして許容されるものといえなければ、部下への指導がパワハラに該当すると認定されるおそれがあります。
この考え方からすれば、部下がミスを犯したことに対する制裁として、暴行を行うこと、私的に罰金を徴収すること、見せしめ的に懲罰を加え、明らかにそれが部下の名誉を棄損するような態様である場合などは、いくら業務上の指導目的だとしても、手段が不相当であるとしてパワハラにあたるといわざるを得ないでしょう。また、きわめて些細なミスに対し、必要以上に強く叱責をすることも、社会通念に反するものとしてパワハラにあたる場合があるものと思われます。

パワハラの該当性については、一般的には以上のように考えられています。ただし、一口にパワハラといってもその態様は千差万別であることから、現実に行われた行為がパワハラに該当するかどうかの判断は、事実関係を綿密に調査し、上司と被害者の言い分を精査した上で、個別具体的に判断せざるを得ません。また、パワハラを認定するためにどの程度の証拠が存在しているのかという問題もあります。そのため、万一、上司と部下との間で現実にトラブルが生じてしまった場合には、早期に弁護士等の専門家へ相談し、法的な観点から事実関係を調査した上、紛争の解決にあたることが、会社のコンプライアンスの観点からも重要であるといえます。

損害賠償請求との相殺

私の会社で配達を担当させていた従業員が、会社の軽トラックで配達中、サイドブレーキを引かずに坂道に停車したため、車から離れた間に車が動き出して川に落ち、車、商品が破損しました。
あまりに初歩的なミスなので、その従業員に弁償させたいのですが、お金がないと言います。そこで、その従業員に対する給料から天引きしたいのですが、問題ないでしょうか。
  1. ご質問の中には、法律的な問題が2つ含まれています。すなわち、(1)業務中の事故で発生した損害を労働者に負担させることができるか、(2)損害の賠償金を、給料から天引きできるか、という問題であり、一概には回答できません。
  2. まず(1)の問題ですが、例え労働者の過失により発生した損害であっても、常に労働者に対して全額賠償請求できるわけではありません。最高裁判例は、諸般の事情を考慮して、労働者に賠償請求できるかどうか及び請求できる割合を決定するとしています。具体的な裁判例では、労働者の過失の程度(不注意の程度)が軽い、当該労働者の勤務態度が悪くなかった、地位・給与が高くない、社員教育など会社側の事故防止措置が不十分、保険未加入、等の事情を考慮して、請求できる範囲を制限しています。また、労働者の過失が軽い場合には、請求は全くできなくなるとする裁判例もあります。この判断は個別具体的になされています。
  3. 請求できるとして、次に(2)の問題ですが、天引きは、法的には損害賠償債権と賃金債権の相殺になります。そして、労働者の同意を得ずに、賃金と他の債権を相殺することはできません。賃金は、現金で、全額、現実に、支払う必要があるからです。したがって、天引きをするには労働者の同意を得る必要があります。最高裁判例では、ただ合意があれば良いのではなく、労働者の本当に自由な意思に基づいて相殺の合意をしたことが必要とされており、裁判では自由な意思に基づく合意だったかが慎重に判断されます。
  4. ご質問のケースでは、従業員の過失は重いと推測できそうですが、より具体的な事故原因や事故態様、上述した関連事情の有無を含めて、判断することになります。最終的に裁判で、何割まで賠償させることができると判断されるかは、法的評価の問題も含むため、予想することは難しいと言えます。賠償させうる範囲が制限されることも十分に考えられるので、労働者に全額賠償させてしまうと、後に裁判で返還を命じられることも考えられます。
    次に、有効だと認められる相殺合意をなすには、従業員に、損害賠償義務の存在、額、根拠などについて十分な説明をし、相殺を納得させた上で、相殺合意をすることが必要でしょう。また、後日の証拠を残す意味で、十分な説明をした上で相殺に合意したことを書面に残す必要があります。

上記二点とも微妙な判断を含むことから、もし裁判になれば、天引きの全部または一部が無効とされるリスクがあります。安易に天引きをせず、予め弁護士に相談のうえ、対応することをお勧めします。

給与規定の切り下げ

我が社は従業員30名を抱える会社です。会社が2期続けて赤字になってしまいました。来期も好転は難しいと思います。経費削減も限界になってきているので、給与を下げて人件費を削減したいと考えています。就業規則(給与規定)を変更して労働基準監督署に届ければ給与の切り下げは可能でしょうか?
  1. 結論
    まずは給料を切り下げる必要性を従業員に丁寧に説明して全員から同意を得る努力をするべきです。どうしても同意しない従業員がいる場合は、就業規則(給与規定)を変更して給与を切り下げるという方法もありますが、それが有効と認められるためには事前に様々な検討を行う必要があり、労働基準監督署に届ければ良いといった単純なものではありません。
  2. 従業員の同意
    給料の切り下げについて従業員の同意を得る際には、後日同意の不存在や、同意の無効等について争われることを避ける必要があります。
    会社の経営状況を説明する等して従業員に対して給料切り下げについての理解をきちんと得たうえで、従業員の自らの意思による同意を得るように配慮する必要があります。同意を得る際には、変更後の賃金等を明示した書面による同意をしておく方が賢明です。
  3. 就業規則の変更について
    10人以上の従業員、すなわち労働者を使用する使用者ですので、個別に御社の従業員との間で給与を下げる合意をせずに給与規定を下げるためには、就業規則を変更する必要があります(労働基準法89条)。
    就業規則を変更するためには、変更する就業規則を作成し労働基準監督署に届け出でなければなりません。また事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合の、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならず(労働基準法89条)、変更後の就業規則について労働者に掲示や書面等によって周知させなければなりません(労働基準法106条1項)。
    就業規則の変更が合理的で、かつ変更後の就業規則が労働者に周知されている場合には、例外的に労働者との合意がなくても、就業規則変更によって労働条件を不利益に変更することができます(労働契約法10条)。
    御社が就業規則を変更して給与規定を下げるということは、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更することになりますので、その変更には合理性がなければなりません。

御社は2期続けて赤字になっており来期も好転は難しそうだということですから、経営者側の必要性は一定程度あると思われます。しかし、給与を下げる程度やその相当性、代償措置や労働条件の改善を行ったのか、労働組合とどのような交渉をおこなったのか、他の労働組合や他の従業員にどのような対応をしたかどうかなどを総合的に考慮して合理性があるといえなければなりませんので、これらの点を明らかにするためにも、弁護士に相談されることをお勧めします。

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