相続の落とし穴10項目

遺言相続に関して一般に言われていることにも、間違いはあります。ここでは、遺言相続センターの活動を通じて判明した誤解されやすい落とし穴について、簡単に解説します。

○遺言書さえ残してくれていれば・・・

 相続人間の遺産分割協議が難航しそうな場合には、遺言書を作成しておくべきでしょう。しかし、それ以外にも、後になって相続人たちから「遺言書さえ残してくれていれば」と言われる場合があります。子どものいないご夫婦、内縁関係のご夫婦、法定相続人の中に行方不明者や海外在住者がいる場合、事業承継の場合、再婚しているケース、法定相続人が1人もいない場合などがこれにあたります。思いあたるところがあれば、ぜひ遺言を残してください。

○遺言書は自分で書かない

 遺言書は自分で書くものと思っていませんか。しかし、自筆証書遺言は形式的な要件を満たさなければ無効となりますし、紛失・偽造・隠匿の可能性もあって、お勧めできません。また、公正証書遺言の場合でも、ご自身で文案を考えるのはひと苦労で、公証人が手取り足取り遺言の内容を考えてくれるわけでもありません。とくに、正確な内容の条件つき遺言や遺留分に配慮した遺言の文章を考えるのは至難です。遺言の骨子をご自身でお考えいただくのは当然ですが、文章については弁護士に任せることをお勧めします。

○遺言書作成キットやエンディングノートの使い方

 最近では、終活などといって、簡単便利な遺言書作成キットやエンディングノートが売れています。しかし、遺言書キットは原則的な遺言の案を示してくれるだけですし、エンディングノートは遺言ではありません。「遺言のようで遺言でないもの」を残すとかえって相続の火種になりますから、注意が必要です。

○認知症になる前に遺言書を作成する

 せっかく遺言を残しても、その当時すでに認知症になっていたなどという事情があると、遺言の無効を争われることもあります。これでは紛争は長期化するだけです。認知症の人口は300万人とも800万人とも言われていますので、是非、元気なうちに遺言書を作成してください。

○介護が招く相続紛争

 高齢化社会が進み、定年になった子世代が老親の介護に身を尽くすという話も少なくありませんが、介護の苦労はほかの子にはわかりません。むしろ、親と同居して親の財産を食いつぶしているのではないかと疑われることさえあります。しかも、もともと親子間には扶養義務があるので、親族による介護は寄与分にあたらないことが多いのです。こうした場合には、親を見送った後、双方が特別受益と寄与分を主張し、遺産分割が長期化することになりかねません。そうしたことを避けるためにも、早めに弁護士にご相談ください。

○相続税対策は相続対策に非ず

 相続対策は相続税対策だと考えていませんか。なるほど税理士さんに相談すれば、生前贈与、生命保険、相続時精算課税制度、配偶者税額軽減措置、養子縁組などの節税対策を教えてもらえますが、節税対策のおかげで相続人間に不公平感が生まれ、紛争になったのでは元も子もありません。本当の意味で相続対策を考えるのなら、税理士さんと弁護士の両方に相談していただく必要があります。

○問題の先送りが招く親の取り合い

 ご両親のうち一方がお亡くなりになった場合、配偶者税額軽減措置を利用して、大半の遺産を他方の親に相続させることがよく行われます。しかし、これは問題の先送りで、しばらくして残った親に認知症などが現われると、兄弟姉妹の確執が表面化し、親の取り合いや遺言の書かせ合いに発展することがあります。ひいては、成年後見の申立などが行われることがありますが、これは相続紛争の前哨戦です。そうならないよう財産分けを先送りにせず、財産分けをする際に親の介護についても早めに話し合いをしておくことが必要です。

○相続税申告期限目前の遺産分割協議

 相続税の申告納付期限は相続開始後10カ月以内ですが、その間際になって、遺産分割協議が始まることがあります。そして、すぐに協議をまとめないと多額の相続税がかかると言われて遺産分割協議書の作成に応じる例が少なくありません。しかし、後でやり直せばいいと思ってもそうはいきませんので、早めに遺産分割協議を始めて下さい。

○疑心暗鬼を生じ、通帳嘘をつかず

 よくある相談のうちのひとつは、他の相続人が遺産を隠しているに違いない、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てれば家庭裁判所が調査してくれるのか、というものです。しかし、家庭裁判所は遺産の内容を調査してくれるわけではありません。また、そのように疑われる方も嫌な思いをしますから、同居や介護をしている相続人は、日ごろから被相続人の財布を別にしたり、銀行口座などで収支を記録するようにしてください。

○寄与分と特別受益は絵に描いた餅

 法律は、法定相続人間の公平を図るために特別受益や寄与分の制度を定めていますが、裁判所の統計をみると、これらを主張した例のうち、認められたのは双方とも1割程度しかありません。それは、両方とも要件が厳しく立証も難しいからです。特別受益や寄与分を主張したいと思う場合には、まず弁護士にご相談ください。